#327 『古物店・弐 戻る』
古物店シリーズ二日目。
私には、とある特技がある。それはとても即席ではあるが、“封印”が出来る事だ。
仕事柄、時折オーナーが店に“厄介モノ”を運び入れて来る事がある。だが厄介モノをそのまま商品として出す訳には行かないので、その時は私の能力でしばらくそれを封印するのだ。
だがやはり中途半端な人間がやる、“とりあえず”的なものでしかない為、良くて一ヶ月。悪けりゃ一週間で解けてしまう程度の封印だ。まぁ、そこを見込まれて今ここの店にいると言う訳なのだが。
もしかしたら経験のある方もいらっしゃるかも知れないが、古物を買い取ってしばらくは何事も無かったのに、ある日突然、妙な事が起き始めると言う現象は、まさにこれである。元々、曰くがあった物を売りたいが為に、即席の封印を施しただけの話なのだ。
ある朝、店に入った途端に圧倒するような迫力のある“念”が飛んで来た。何事かと思って照明を点けると、そこには人の腰の高さほどのカーリー神の銅像が置かれてあった。
間違いなく、その念はそこから来ていた。値札を見れば六十五万円。もっと安くして早く売ってくれればいいのにと思いながら、私は早速、封印の術を施した。
だがその銅像、思った以上に問題児であった。封印が解けるのがとても早く、下手をすれば二十四時間も持たない早さで解かれてしまうのである。したがって私は、閉店時と開店前に一度ずつ。一日二回の封印をしなければならなかった。
しかもその銅像、思った通りに買い手が付かず、なかなか掃けて出て行ってくれない。大概、本店の方で引き取ってもらおうかと考えていた矢先の事だった――
翌日の午後の事。突然、ゾワリと店内の空気が変わった瞬間があった。とんでもない事である。店の営業中、しかも客がかなりいる状態で銅像の封印が解けてしまったのだ。
客達がざわざわと騒ぎ出す。さすがの念である、なんの能力も持たない人までもが感じるぐらいなのだ。私は急いでその像の前まで行き、「すいません、ちょっとエアコンが不調みたいで」と言い訳しながら、「これ退かせば少し良くなるかなぁ」などと無理のある事を言いつつ、その像を無理矢理に外へと放り出した。
像は店の横に立たせたままにして、店へと戻る。そしてすぐにオーナーに電話をして、「あの像はすぐに引き取ってくれ」と、頼んだのだ。
そうしてしばらくは何事も起きないままでいたのだが、夕方近くなって「表にある像、譲ってくれないか」と、客が現れた。
物好きもいるものだなと思いながらも、ようやく問題児が売れて行った事に安堵しつつ、その日は無事に終了した。
翌日、オーナーから電話が来た。「例の像、言われた通りに引き取ったけど、表に出しっぱなしは良くないぞ」と言う、お叱りの電話だった。
「あぁ、申し訳ない」と謝りつつ、矛盾に気付いた。像は昨日の時点で売れて行ってしまったのだ。実際に車に積み込まれて発車した所まで見ていたぐらいだ。確実に昨日の時点で、店からは無くなっているのである。
では一体、オーナーは“何”を引き取って行ったのか? その件については、結局聞けず終いであった。
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