#328 『古物店・参 被る』

 古物店シリーズ三日目。

 私が雇われ店長をしている店は、いわゆる喫茶店と言うものなのだが、実際は古物商そのものなのである。

 ある時、店に“厄介モノ”が持ち込まれた。持ち込んだのは中年の陰気な女性で、手にした段ボール箱から異様な念がほとばしっている。

「お引き取りはお願い出来ますか?」聞かれて咄嗟に、「今は引き取りの係の者が不在でして」と嘘を吐く。一見して厄介モノだと分かる品は、こうして断るのが一番だからだ。

「では、本店の方へと伺ってみます」と、女性は店を出て行った。私はすぐに本店へと連絡し、「厄介モノ持った女性がそっち行くから注意しろ」と、その女性の特徴を伝えた。そして私はもう、この話は終わったものだと思い込んでいた。

 その日の夕方頃、本社の店長である“タケさん”から電話が来た。

「コバちゃん、ごめんよぉ。なんか忠告してくれたお客さん、俺がいない時に店に来ちゃったみたいでさ。ウチのアルバイトが、無理に押し付けられて受け取っちゃったみたい」と言うのだ。

 なら、夜そっちに行くから、ブツは休憩室に置いておいてくれ。可能ならその箱の四隅に塩を盛って動かさないようにと忠告しておいた。

 箱の開封は、私の他に本店のタケさんとオーナーの二人が立ち会った。

 開けてみて驚いた。実際、誰もが悲鳴を上げたぐらいだった。出て来たのは人の生首。――ではなく、精巧に作られた人の顔の面。いや、おそらくは人の顔からそのままかたどったデスマスクなのだろう、息衝くような生々しさが見て取れた。

「これはヤバい。俺が明日、神社に持ち込んで処理してもらう」と、オーナー。そしてその日はそこで解散となった。

 翌朝、私は昨夜の事などまるで忘れて、いつも通りの早朝に店の裏手から中へと入った。同時に襲い掛かる強烈な念。しかもその念は昨日の夜に例のデスマスクが発していたものと同じものだと気が付いた。

 壁のスイッチを探り、電気を点ける。するとそいつは、堂々とした態度で店の中央に立っていた。頭から白いシーツを被り、その顔にはデスマスクを付けている。

「誰?」と私が声を掛けても、何も言わない。だが確かにそこから“生き物”としての存在感は感じられた。

 その時だった。裏手のドアの向こうから、「コバちゃんもう来てる?」と、オーナーの声。そして私がそちらに視線をやった瞬間、背後から「ゴトン」と何かが落ちる音が聞こえた。

 私とオーナーは、そこに転がるデスマスクを見た。シーツは既にただのシーツとなって床に落ち、さっきまでそれを被っていたであろう存在は、影も形も無くなっていた。

 結局、そのデスマスクは元の持ち主である中年女性の所へと帰って行った。オーナーが店に来たのは、まさにその女性からの連絡を受けたからこその事だったらしい。

 だが一つ腑に落ちないのが、マスクは前の夜に本店に置いて来た筈なのに、何故か翌朝には私のいる喫茶店の方に来ていた事である。

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