#206 『借り手の付かない駐車場』
不動産の賃貸管理をしている。仕事柄、おかしな現象の起こる家や事故物件は多々あるのだが、いわくのある駐車場と言うのもかなり珍しいと思うので、今回はそれを紹介したい。
神奈川県にある某月極駐車場。近隣は住宅地なので、その駐車場はかなりの人気があり、空き待ちで予約が入っている程だ。だがその中に一つ、どうしても埋まらない場所がある。もちろん予約が入っているぐらいなのだから順次その駐車場を紹介するのだが、そこを借りる人はあっと言う間に解約をする。借りている期間も、長くて一ヶ月ぐらいのものである。
ある日、そこを借りたばかりの人が解約を申し込んで来た。やめとけば良かったものを、僕は思わず解約理由を聞いてしまった。
「一回、ご自身で停められてみては? 聞くより納得した方が早いから」との返事。
それもそうだなと思い、上司の許可を得た上で、翌日からそこに僕の車を停めさせてもらう事になった。おかげで、その駐車場まで車で行き、そこからは電車で通勤と言うやけに馬鹿げた出勤形態にはなったのだが、それでその解約理由が分かるのならばと、少しの間頑張ってみる事にしたのだ。
“58”とナンバリングされた場所を見付け、僕はバックで切り替えしながら車を下げて行く。すると突然の警告音。見れば車載カメラのモニターに、障害物の表示。「え、まさか」と呟きながらバックミラーを見れば、そこには後ろ姿で立つ女性の姿が確認出来る。
慌てて車を降りるが、後方には誰もいない。念のためと思い、しゃがみこんで車の下をも見てみるが、当然の事ながらおかしなものは見受けられない。
「何だったのだろう」と、再び車に乗り込む。そして視線の端で気が付く、助手席側の窓から覗く人影。同時にまた、車載カメラのモニターが激しい警告音を鳴らし始めた。
「それで結局、停められなかったのか?」と、上司。僕がうなづくと、上司はボリボリと頭を掻きながら、「やっぱりなぁ」と独り言をいう。
どうやらあの駐車場は、最近まで大きな家屋が建っていたらしい。そこに暮らしていた老人が亡くなりしばらくは空き家が続いていたのだが、更地にして駐車場になってから、その“ナンバー58”の場所だけに怪異が起こるようになったのだと言う。
「その場所って、何かあった所なのですか?」と問えば、「裏庭だったんだよ」と上司。
枯れて朽ちた桜の木が一本、そこに生えていたのだそうな。もちろんそこに住んでいた老人が、そこで亡くなったと言う訳でも無いらしい。
今はその場所だけアスファルトが取り除かれ、新しい桜の苗木が植えられている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます