#495 『燃やしちゃってよ』
昭和の時代の頃のお話しである。
近所で火事があった。幸いな事に発見が早く、一部屋の半分ほどを焦がした程度のボヤで済んだ。
家の人は留守だった。火事も収まり人だかりが掃け始めた辺りで帰って来たのだ。
そこの家は、母子家庭だった。母親とまだ幼い男の子と二人暮らし。もしかしたら子供をどこかに預け、仕事をしていたのだろうか。二人は手を繋いで一緒に帰って来た。
そこで母親は自宅の火事を知った。驚きながら火元を聞くと、消防士の一人が、「寝室でした」と答えた。
一瞬で母親の顔色が変わる。「寝室の、どの辺りですか?」と訊ねたら、その消防士は「奥の箪笥の上でした」と答えた。
「いやあぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
悲鳴が上がった。それはその返答をもらった母親の悲鳴。同時に手を繋いでいた幼い子も、一緒に泣き始めた。
「消さないで燃やしてくれたら良かったのに! 何もかも全部、燃やしてくれたら良かったのに!」
母親は物凄い剣幕で、その消防士に食って掛かった。
後で聞いた話だが、その箪笥の上には“お札(ふだ)”が置かれてあったらしい。
何故燃えたのかは不明だが、確かに火元はそこだった。
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