#139 『ヘルメット積み』
ある時からやけに頻繁に同じ夢を見るようになった。
それは狭い部屋の中に散乱するヘルメットを延々と積み上げる、そんな夢。どれもバイクのフルフェイスのヘルメットなので、ボール状に丸い。従って夢の中ではやけに現実的にガラガラと崩れてしまい、また周囲に散乱してしまうのだ。
夢には必ずオチがあるのだが、いつもそこだけ覚えていない。後頭部に大きな星型の印があるヘルメットを拾い上げた辺りで悪夢となり、うなされて隣室の弟から起こされるからだ。
とある日、友人達に誘われて、隣町にあると言う工場の廃屋を探索する事になった。友人の車で前まで乗り付け、ガラスの割れた窓から中へと侵入する。そして中へと入ってから誘った友人がその廃屋の説明を始めた。
ここはバイクのヘルメットを製造していた工場だ。あちこちにヘルメットが落ちているが、一つだけ中身の入ったヘルメットがある。そいつを見付けたら呪われるらしいぞ――と。
じわりと、俺は心の中で不安が広がった。毎晩繰り返し見た夢は、今日の日の予言だったのではないかと言う想像が働いたからだ。俺はなるべく友人達の後から付いて行く事にして、余計な事はしないぞと決めた。
やがてその廃屋の問題の部屋だとされる、ヘルメットが散乱する部屋へと到着した。確かにヘルメットは散乱しているが、夢で見たような雰囲気ではない。俺はどこか安堵しつつ、皆が飽きて帰ろうと言い出すのを待っていた。その時だった――
「地下がある」と、友人の一人が部屋へと飛び込んで来た。嫌な予感がした。皆がそちらへと向かって行く間にも、俺は逃げ出したくて仕方が無かった。
やがて地下へと到着する。部屋のドアを開け、誰もが驚きの声をあげる。見れば狭い部屋の中央に、うずたかく積み上げられたヘルメットの山があった。
咄嗟に思った。あれは、俺が積み上げたヘルメットだと。しかもその山の一番上に置かれているのは、まさに星形の印の入ったヘルメット。それを見た瞬間に、俺はあの悪夢のオチを思い出す。
「動くな!」と、叫ぶ俺。そして慎重に床を探れば、夢の通りにそれはあった。
人がつまづくように張られた、床すれすれのピアノ線。そしてつまづいた人が引っ掛かるであろう、人の胸の高さ辺りで張られたもう一本のピアノ線だ。
酷い悪戯である。要するに、中身の入ったヘルメットは、これから出来る予定だったのだろう。
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