#138 『見覚えの無い人』
学生時代、UFO研究会と言うものに所属していた。
住んでいる地元自体がとてもUFO目撃談の多い場所であった為、地元の大学の研究会もそれなりに会員が多く在籍していたのだ。
ある日の事、とても頻繁にUFOの離着陸が見られると言う場所で宇宙人交流会をひらく事になった。少々小高い丘のような場所でテントを張り、夕食後の日没からのスタートとなった。
あまり活動に積極的ではない僕は、記録係に任命された。要するにカメラを渡されてその交流活動の一部始終を撮影するだけの仕事だ。メンバーは十人ほどいただろうか、地べたに座り込み大きな輪となって、お互いに手をつなぎ合い、夜空を見上げてなにやら妙な呪文を唱える、そんな交流会だった。
僕はその輪の外側にいて、三脚で固定したカメラを回すだけ。皆は熱心に呪文を唱え続け、時折リーダーの合図で手を上げたり、「おいでください!」と大声を張り上げたりしていた。
しばらくその儀式は続いたがまるで何も起こる気配が無い。普段より飽きっぽくいい加減な僕は、もう既に完全に飽き飽きしていて、カメラを回しっぱなしにしたままいつしか後方の草むらで眠りこけてしまっていた。
果たしてどれぐらいそうしていたのだろうか、ふと気が付けばいつの間にか呪文の詠唱は終わっていた。メンバー達は相変わらずその場にして、輪になったまま手を繋いではいたのだが、どうにも少々様子がおかしい。皆が皆、下を向いてうつむいており、まるで寝ているかのように微動だにしないのだ。
「あの、なんかありました?」と言う僕の呼び掛けにも、誰も返事をしてくれない。
なんか妙だなと思いながらも、「ちょっと小便行きます」と、カメラはそのままにして暗闇の中を移動した。
小用を済ませて戻って来ると、何故かその場に誰もいない。慌てて呼んでみたが何の応えも無い。僕はすぐにカメラをしまって一人、家へと逃げ帰った。
翌日、置いてけぼりになった件で皆に文句を言ったが、僕は逆に怒られた。小用に行くと行って帰って来なくなり、皆で探して回っていたと言うのだ。
どうにも話に食い違いがある。僕はその辺りをハッキリさせたくて皆の前でカメラの録画映像を確認する事にした。――だが結果は、どちらの言い分も合っていた。メンバー全員は僕が帰って来ないから探しに行こうと話し合っている。だがこの暗闇でどう探そうかと言っている所で僕が現れ、メンバー達の名前を呼び回り、その後カメラを撤収し始めたのだ。
一体これはどう言う事だろう。僕は誰もいないからその場を立ち去った筈なのに。
思いながら何度か映像を見返していると、メンバーの一人が「こいつ誰よ?」と、とある一点を指さす。見ればカメラの真正面、皆が立ち上がっている所で、一人だけまだ輪を作っているかのように両手を広げて座り込む男がいた。
僕の顔がカメラを覗き込む。少し遅れてその男が顔を上げる。少しの映像の乱れの後、カメラは停止する。顔を上げたその男の顔は、メンバーの誰もが「見覚えの無い人」と口を揃えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます