#140 『近所の心霊スポット』

 東京の西の方に、かなり有名な心霊スポットがある。

 それはとある交差点で、その辻の一角に建っている電話ボックスが、該当の地点なのだ。

 昔からその電話ボックスでの幽霊目撃談が多発していると言う噂はあったが、実はどの噂もてんでバラバラな上、一貫性も信憑性も無く、地元ではさほど怖がられてはいないと言う、そんな場所でもあった。

 僕の家はその電話ボックスのすぐ近くにあった。しかも二階の僕の部屋の窓からはその電話ボックスが覗けるので、面白半分に友人達が泊まり込みでそれを観察した事もあった。

 だがやはり、何も起こらない。僕自身もその電話ボックスで何かを見たと言う事も無い。

 ある深夜の事、一体どこで飲んだくれたのかは知らないが、中年のオヤジがひどい千鳥足で大通りを歩いているのを窓越しに見掛けた。

 酔っ払いは妙に陽気で、ろれつの回らない口調で大声で何か話している。内容こそは分からないが、開けた窓からその声は僕の耳にも届くぐらいだった。

 やがてそのオヤジは、例の電話ボックスへと辿り着いた。するとオヤジはその電話ボックスに向かって何か罵るかのような言葉を発した後、その場でうずくまり、苦しそうに嘔吐をしていた。

 さんざ吐いた後、オヤジは「いや、すんません、すんません」としきりに頭を下げ、最後には電話ボックスに向かって一礼し、そして立ち去って行った。

 あぁそうか、見える人には見えるんだと、僕はその時思った。同時に地元の人が誰もそこを怖がらない理由もなんとなく感じた。

 今はもうそこに電話ボックスは無いのだが、昔を懐かしんで、僕はこの話を残しておきたいと思った。

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