#53 『祓い師』

 家の奥座敷に、もはや寝たきりと言ってもいいだろうぐらいに弱り切った祖母がいる。

「うやぁぁぁ、いやぁぁぁぁ」と、毎日悲鳴に近いうなり声を上げながら、祖母は寝たままの格好で両手で空を切り、暴れている。

 かつて祖母は、日本屈指のお祓い師だったらしい。だが今は家族にまで、「ボケ老人」と言われて煙たがられている始末だ。

 母は言う。「お母さんは、厳密には“祓い師”ではなかった」と。

 では何をしていたのと聞けば、封じる人――“封霊師(ふうれいし)”と言うものらしく、霊を祓うのではなく、封じて動けなくする職業の人だったのだそうな。

 ある日、学校から帰ると、奥座敷に白衣の人がいた。どうやら祖母が亡くなった様子で、死亡診断書をもらう為に呼んだ町医者のようだった。

 祖母の死は壮絶だった。身体中の肉片を千切り取られるようにして、ぼろぼろの遺体となって横たわっていたからだ。

 後になって分かった事だが、祖母は老化によって封霊の力が弱まり、封じていた者達に襲われたのだろうと母に教わった。

「異界に関わる者の末路は、大抵そんな感じだよ」と、母は言う。きっと母もまた、似たような最期になるのだろうなと、私は悟った。

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