#52 『窓の外』

 時折、道路側に面したリビングの窓に、人の頭が見え隠れする事がある。

 あぁ、誰かが通って行ったんだなと言う事は分かるのだが、そこの窓は外からだと約二メートル程の高さがあるのだ。

 あれは人じゃない――とも言い切れない。昨今、若い人達の身長はかなり伸びているそうだし、近所にそんな背の高い人が住んでいたとしてもおかしくはないからだ。

 なのでそこに人の頭が見え隠れしたからと言って、大騒ぎをする程ではないとは思うのだが、それでも少し気にはなる。

 ある日、その窓から人が覗いていた。さすがにそれには私もびっくりした。

 思った通り、若い男性のようだ。私は少々声を荒げて、「何かご用ですか?」と問えば、その頭はすっと引っ込んだ。

 やはりあれは現実の人間なんだろうかと思い始めて来た頃、窓の外に良くその男性を見掛けるようになった。

 最初は頭のてっぺんが少しだけ見えていただけだったのだが、次第に目元が見えるようになり、鼻が見えるようになり、今では唇までもが見える位置で歩いて行く。

 人だとしても、少々育ち盛り過ぎじゃないだろうか。

 今日もその男性は窓の外を通り過ぎる。私と目が合い、少しだけ会釈をするのが見えた。

 現実の男性であると言う証拠は、今もまだ掴めてはいない。

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