#460 『黒い人と犬』
ゆーろさんより頂いた体験談、三夜目。
――私は昔から犬が好きで、生活が安定するようになってからは、常に傍に犬がいる生活を送っていた。
犬は、霊的なものを察知するし、遠ざける役目も果たしてくれる。親友のM美曰く、「あんたは取り憑かれやすいから」という言葉の通りで、今では霊媒体質の私にとって、切り離せないぐらいに大切な存在となっているのだ。
とある夕暮れ時の散歩で、いつもは通らない河川敷の砂利の道を犬と一緒に歩いた。
しばらく行くと、道は高架橋の下を通るようになる。高架自体がかなり幅広いので、その真下へと入ればトンネルの中のように暗くなるのである。
犬は普段、絶対に人に対して吠える事はしない。ただ、“見る”のである。見て、確認して、通り過ぎる。それがいつもの対応である。
しかし、その日は違った。高架橋の下へと入り、日陰の道を行く。目がまだ慣れずほとんど暗闇かと思えるぐらいの日陰の中を歩いていると、ふと目の前に人の足があったのだ。
驚いて視線を上げる。もうほとんどキスでも出来そうなぐらいの距離で、人が立っていた。
咄嗟に、中年の女性だと思った。その足下には、リードで繋がれている犬らしきものがいた。
曖昧な表現なのは、その女性も、犬も、暗闇以上に暗く、もうほとんど輪郭程度しか見分けが付かなかったせいだ。
だが、息遣いだけは私の耳に届いた。犬の上げる、「ハッハッハッ」と言う吐息である。
私は咄嗟に、「すみません」と道を譲り、通り過ぎた。そうしてから、私の連れている犬が全く何の反応もしなかった事に気付いたのだ。
振り返るが、想像通りに誰もいない。私は散歩を途中で切り上げ、家路へと着いた。
玄関先で、常に持ち歩いている小分けの塩を取り出すと、先に犬の頭に振り掛け、続いて私の両肩へとそれを撒いた。
背後で、人の足音が聞こえた。同時に、連れているのであろう犬の息遣いもが耳に届く。
「あぁ、離れたね」と安堵し、玄関を開ける。
「あなたあんまり、頼りにならないじゃない」と、犬の足を拭きつつ笑いながらそう言うと、犬は困ったような顔つきで、「くぅん」と鳴いた。
――これでゆーろさんの体験談は終了だが、また何かの機会があれば、ここで紹介させていただきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます