#459 『話題に挟まる第三者』
これもまた、ゆーろさんの体験談。
――私が大学を出て、とある配送系の事務職に就いていた頃の話である。
事務所の電話が鳴る。だが私は手を伸ばす事をしない。そもそも受け付け業務とは部署が違うし、例えそれに対応しても結局は要件を聞いて他に回すだけ。要するに手間になるので出なくて良いとされていたからである。
だが、その日の電話はなかなか誰も出なかった。もしかして全員対応で埋まっているのかしら。思って私にしては珍しく、受話器を取り上げた。
「もしもし、お電話ありがとうございます」
続けて社名と、私の名前を述べる。すると先方は男性らしく、「集配のお願いをしたいのですが」と言う。
「もしもし、申し訳ありませんがもう一度お願いします」と、私は返す。
別に聞き取れなかった訳ではない。先方の受話器から“もう一人”の声が聞こえて来て、話を邪魔したからである。
「もーしもーし、もーしわけあーりませんがー、もういちどおねがいしますぅ-」
中学生か、高校生ぐらいだろうか、凄いアニメ声で、まんま私の言葉を真似て返して来るのである。
「あ、はい。集荷のお願いをしたくて」
「集荷ですね。本日のお受け取りでよろしいでしょうか?」
「しゅーかでーすねー、ほんじつのおうけとりでよーろしーいでーすかー」
面倒臭いのだが、同時に二人を相手にしなくてはならない。極力耳を男性側に集中し、やりとりを続ける。
「いえ、本日の予定ではないのですが」
「お荷物の大きさや個数は決まっておりますでしょうか?」
「おにもつのおーきさやー、こすうはー……」
果たしてこの子は先方の家の子供か、兄弟なのだろうか。さすがに先方の男性も困っている様子で、その子が喋っている間だけは口を挟まず黙っている。
「え、えぇと、運賃とかはその場で支払いとか可能ですかね?」
「もちろん可能ですが、着払い指示でも大丈夫ですよ。お荷物の配送先はどちらでしょうか」
「もーちろんかのうですがー、ちゃくばらいでもー……」
瞬間、私は思ってしまった。確かこう言うの昔もあった。これってもしかして、人間じゃなくて――?
と、心で思った瞬間、「あ、わかっちゃった? またね、ばいばーい!」と、声が途切れた。
先方の男性は深い溜め息を吐き出し、「続けてよろしいでしょうか?」と聞いて来た。
時計の針は、午後の四時五十分を指している。集配の要件を担当に回し、どうしてこんなタイミングで怪異なんか起こるんだろうと、私も溜め息混じりに席を立ち、帰り支度を始めた。
終業のベルト同時に、タイムカードを押す。そして外に出た瞬間、携帯電話が鳴り出した。
表示を見る。思った通り、それはM美からの着信だった。
「ハイ、もしもし――」出るとそれは、今近くにいるから晩飯にでも行こうと言う、M美のお誘いの電話だった。
私は、日中も連絡は遠慮しろと言い掛け、笑いながら言葉を飲み込む。
「いいけどあんた、今どこにいるのよ――?」
今にもビルの陰に隠れようとしている、オレンジ色の夕日が眩しい。
今回もまた、話す事は沢山あるなと思いながら、私は心の中で行きたい店をピックアップするのだった。
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