#458 『僕の事知りませんか?』
以前にご紹介した、ゆーろさんの体験談。連続三夜でお送りしたいと思う。
――ある晩の事だった。ふと目が覚めると、部屋の空気がやけに濃密で、重くなっている。
嫌だなぁ、前はこんなの感じるタイプの人間じゃなかったのに。などと思っていると、寝ている私の背後側――左横向きで寝ていたのだ――に、見なくても分かるぐらいの“人の気配”。
ごくりと、喉が鳴る。不審者だったら怖いし、霊の類だったらもっと怖い。どうしようかと思っていると、その気配のする方向から、「僕の事知りませんか?」と、声がしたのだ。
知らんわ、はようどっか行き! などと心の中で念じていると、そいつは声のトーンを高くしたり低くしたりしながら、何度も何度も、「僕の事知りませんか?」と聞いて来る。
知らんがな――知りませんか?
知らんがな――知りませんか? を、延々と繰り返して朝が来た。
翌日、学校でM美にその事を相談すると、大笑いしながら「あんたもとうとう、“視える側”の仲間入りやな」と言う。
「それじゃあ今夜は、私があんたん家に泊まりに行ってやろう」と訳の分からない理屈で話が終了した。
だが、さすがに昨日の今日である。一人でいるよりはいいかと、結局M美を連れて家に帰る事となった。
寝る前までは特に何もなかった。就寝の時は、布団を二つ並べて横になった。
ふと、真夜中に目が覚めた。またしても背後側に強烈な人の気配。
私は咄嗟にM美を起こそうとしたのだが、その時に聞いたM美の寝言で、全てが氷解した。
「右を見ちゃだめだよ……見たら……」
『僕の事知りませんか?』
なんの事は無い、私が視える体質になった訳ではなく、全てはM美が私に絡んで来ているせいだとようやく悟った。
そう言えば昨夜も、寝る前にM美と長電話をしていたのである。
私自身はM美の事を好きだし、親友とは思っているのだが、どうにも霊的な相性は最悪らしい。その晩から私は、M美とは距離を置く事にした。
「今日からは、日没から翌朝まで絶対に私に連絡しないでちょうだい。後、私の噂話も禁止」
どうやら親友は、私の言いつけをそれなりに守っているらしい。それ以降、夜の間だけはとても平和な日々が続いている。
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