#680 『自供』

 昭和五十年代の頃の話である。

 警察署に一本の電話が入った。内容は、妻を殺害していしてしまったと言うもの。

 急いで通報者の元に駆け付けてみれば、確かにその家の居間には胸を赤く染め、ぐったりとしている女性の姿があった。

 通報者である男性は隣の部屋で首を吊っていた――が、発見が早く一命は取り留めた。

 後の口述で、男は妻の遺体に追い掛けられていたと言う。

 妻を殺して車に遺体を乗せ、とある山中に遺棄した。だが家に戻ってみると遺棄した筈の遺体はまだ車の後部座席に転がったままだった。

 朝まではまだ時間がある。思って今度は川に向かった。

 妻の遺体は確かに水飛沫を上げて川に落ちた。そして後部座席も確かめた上で家へと帰ると、何故か遺体は居間の中央に転がっていたと言う。

 もう逃げられない。思った男は警察へと電話をし、そして首を括ったのだそうだ。

 だがそれと同じ時間に、その近所にて不審者が逮捕され、捕まった男は強盗を働きその家の住民を刺し殺してしまったと自供した。そしてその男が持っていた凶器と血痕が証拠となり、例の居間で殺されていた女性の犯人となったのだ。

 では妻を殺したと連絡をして来た夫は、どうしてそんな嘘を吐いたのか。

 恐らくは妻を殺されたショックで気がおかしくなったのだろうと言う事で片付けられたのだが、夫の所持する車の後部座席からも、妻のものであろう血痕が見付かっている。

「色々と面倒な話になるので、強盗犯の方が犯人となったけどね」と、当時の関係者は語る。

 結局あの夫の方はそれから半月後に、今度こそ失敗せずに自らの意思で亡くなったらしい。

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