#70 『統合失調症』
一人暮らしのお祝いに、叔母から食器棚をもらった。私はそんなもの不要だと一度は断ったものの、あれば便利だからと、ほぼ無理矢理に押し付けられるようにしてもらってしまった。
確かにそれまでは、水切りの籠の中に食器を入れっぱなしだった。小さいながらもあれば役立つものかとも思ったのだが、もらったその晩から家の中で怪異が始まった。
最初は音だ。その食器棚の一番下の開き戸から、ゴンゴンと何かを殴る音が聞こえるのだ。
何だろうと開けてみると、そこには老婆が押し込められていた。要するにその老婆が、戸を開けろとばかりに内側から拳で扉を叩いていたのだ。
その怪異はおさまる事なく毎日続いた。あまりにも頻繁過ぎるので私はとうとうノイローゼとなり、ある日、精神科へと向かう事にした。
一通り事情を説明した後、私は統合失調症だと診断された。とにかくその食器棚は捨てなさいとまで言われたので、友人に手伝ってもらい、リサイクルセンターへと運ぶ事にしたのだ。
さて、友人が家に来てすぐ、いつも通りに食器棚からゴンゴンと物音がし始めた。だがそれも今日までの辛抱だと思っていたら、友人が「何の音?」と、棚の一番下の開き戸を開けてしまった。
悲鳴を上げる友人。私はようやく、精神科の診断が間違っている事に気が付いた。
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