#71 『気付いてますよね?』
良く利用するコインランドリーに、中年男性の霊が出る。
だがそこは俗に言う心霊スポットではない。しかもそこに「出る」と言う噂さえ無い。何しろ僕しかその霊に気付いていないからだ。
「ねぇ、あなた私に気付いてますよね?」
抑揚の無い、宙に放たれたかのような陰気な声だ。そのスーツ姿の男性は、いつもそうやって店の隅から利用客に向かって話し掛けている。だが当然のごとく、誰もその男性には反応しない。もちろん僕自身も、眼中に無いように完全無視だ。
だが、僕以外にもそれが見えてしまう人がいたらしい。中年男性の霊が消えてしばらくすると、いつもの場所に若い女性が立つようになった。
「ねぇ! ねぇ、私の事見えてますよね? 気付いてますよね?」
ほとんど悲鳴に近いような声だった。悪いとは思ったが、やはり私はそれにも無視を決め込んだ。
いたたまれなくなり、僕はしばらくそのコインランドリーを利用しなくなっていた。
少しして再びそこを利用すると、例の若い女性はまだそこにいた。
「ねぇ、あなた私に気付いてますよね?」
何かを諦めたかのような、抑揚の無い、宙に放たれたかのような陰気な声だった。
未だ、そのコインランドリーに霊が出ると言う噂は無い。
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