#113 『相性の良くない部屋』

 ごく稀に、私とはとても相性の良くない部屋に出くわす時がある。

 例えば友人のGさんの住むマンションなどはその最たるものだ。強引に誘われて何度か遊びに行った事があるのだが、とにかくそこにいると頭痛や呼吸困難、めまいに耳鳴りがする上、絶えず頭上から罵声でも浴びせられているかのように、落ち着かないのだ。

 だがそのGさんとても霊感の強い人らしく、それを仕事にしている訳ではないが、時折頼まれて霊視や除霊なども手掛けている。したがってその部屋がおかしいと言うよりは、私の方がおかしいのだと思い込んでいた。

 ある日の事、Gさんの宅のホームパーティーから帰る途中、電車のシートにぐったりと腰掛けていると、目の前に背の高い男性が立った。するとその男性、「あなた、なにやらとんでもない場所にいたでしょう」と話し掛けて来る。私は何故か素直に頷くと、その男性にGさんの家の事を語り始めていた。

 男性は深く頷くと、私に名刺を一枚渡した。名前と電話番号以外何も無い、とても簡素な名刺だった。言われた通りにその晩、彼の所に電話をした。

 翌日、無理を言ってGさん宅に訪れた。ものの一時間もいただろうか、トイレを借りる振りをして胸ポケットから名刺を取り出すと、既に彼の名前など読めなくなるぐらいに名刺は暗く、黒ずんでいた。

 逃げるようにしてGさん宅から離れた。気まずくなっても構わないから、もう二度とそこには行くつもりも無かった。

「名刺、真っ黒になったでしょう?」と、その男性。

 どんなからくりかは知らないが、霊的に作用する場所に行くと反応する紙で出来ている名刺らしいのだ。

「でもGさん、物凄い霊能者ですよ」と聞けば、「自称でしょう。何の能力もないのに、そう自らを語る人は多いですよ」と、男性は笑う。自身に何の取り柄も、特技も無い人ほど、手っ取り早く“特別になりたい”と願えば、政治かスピリチュアル系に走るものですと教えてくれた。

 四年後、噂でGさんが無くなった事を知る。どうやら部屋の中での自死だったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る