#335 『蛍光灯の紐』
真夜中に、奇妙な物音を聞いて目が覚めた。
コン――コン――と、一定のリズムで鳴る物音。どこで何が鳴っているのかはまるで分からないが、間違いなく俺の寝ている寝室のどこかだ。
寝ぼけまなこでぼんやりと暗い部屋の中を見回すと、すぐ目の前を「ひゅん」と音でも出そうなぐらいの勢いで何かが通り過ぎ、向こうの壁に当たって「コン」と音を立てる。
一瞬で理解をした。それは僕の寝ている真上の天井に設えられている、照明のスイッチの紐だと言う事を。
なにしろ部屋の中を大きく振れているのは、その照明の紐の先端に取り付けているソフビ人形だからだ。その人形は、それ自体が夜光塗料を練り込まれて出来ているらしく、こんな暗闇の中でも光って見えるのだ。
俺は手を伸ばしてその人形をキャッチした。掴んでからようやく、それがいかにおかしいかに気付いた。部屋には俺しかいない筈なのに、どうして壁にぶつかる程に振れていたのか。
考えても全く結論は出ない。俺は無理に、夢でも見ていたか、眠る直前に手で撥ね除けてしまったのだと言い聞かせ、再び目を瞑る。
やがてまた睡魔がやって来る。そうしてまた眠りに落ちた頃、コン――コン――と、再びどこかで鳴る物音。
眠気は一気に引いた。胸の鼓動が異常なまでに高く鳴り、俺は弾けるように飛び起きると、急いで寝室を抜けてリビングへと向かった。
夢でも気のせいでもなかった。なら一体、何が起こっているのか。明るくしたリビングでその怪異について考えていると、またしても寝室の方から微かに、コン――コン――と聞こえて来るのだ。
よせばいいのに俺はもう一度、その怪異を確かめるべく寝室へと向かう。ドア越しに、その物音が続いているのを確認する。そして俺は一気にドアを開き、「誰だ?」と叫ぶが、思った通りに誰もいない。ただ、夜光のソフビ人形が壁に届くぐらいに大きく揺れているだけである。
一体ここで何が起きている? 思いながら部屋へと踏み込めば、背後でバンと音を立ててドアが閉まった。
気が付けば俺は、なんの光源も無い真っ暗な部屋の中にいた。慌てて照明を点けようと手を伸ばすが、まるで何にも触れない。それどころか紐の先端に付いていた夜光の人形すらも見当たらない。
俺は一瞬でパニックに陥った。声にならないうめき声が自身の喉から漏れ、そして後頭部に凄い勢いでソフビ人形をぶつけられると同時に、耐えきれない恐怖で失神した。
気が付けば翌日の朝だった。部屋はいつも通りの寝室でしかなく、照明からぶら下がる人形も元の通りだった。
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