#111 『心霊スポットが出来るまで』

 奇妙なコンビニエンスストアで働いた事がある。

 表通りに駐車場があるのは他のコンビニと同様だが、肝心の店舗部分が駐車場よりもワンフロア分下がっていて、車を停めた所よりもずっと下の位置にある、そんな店だった。なので利用客は、その店に行こうとしたならば、そこから階段を降りて行かなければ辿り着かないのである。

 しかもその店の上階に、オーナー夫妻の自宅がある。従って、コンビニの看板を見付けて駐車場に入れた人は大抵面食らう。そこに見えるのは店舗ではなく自宅だからだ。

 店舗裏手は高い石垣。両隣も隣接した家の塀。なので、店内から見れば四方全てが壁で覆われている閉塞的な空間だった。おかげで客はほとんど来ない。まぁ、僕自身はそれが良くて働いていた感もあったのだが。

 深夜、一人で店を回していると、上階の自宅からオーナー夫婦の激しい喧嘩の声が聞こえて来る事がたびたびあった。その内に、二人は離婚したと言う話を聞き、喧嘩騒動は無くなった。

 家から旦那が出て行き、店は奥さん一人で切り盛りするようになった。

 ある日、僕はその奥さんにかなり露骨に誘われた。前々から気に掛かっていたとか言われたが、これは絶対に地雷だと確信していた僕は、頑なにそれを拒んだ。だが不運にも、僕より後から入って来た後輩君がそれに引っ掛かった。バイトが終わるとそそくさと上の駐車場を横切り、上の自宅へと向かう姿を目撃するようになったからだ。

 それから数ヶ月後、オーナーの奥さんが元旦那の殺害容疑で逮捕され、例の後輩君もついでに殺害幇助と死体遺棄で捕まった。

 当然、店は無くなったが、今では知る人ぞ知る心霊スポットとして、経営以前よりも人が多く出入りしている様子だ。

 心霊系の話ではないのだが、心霊スポットが出来上がるまでのそんなお話し。

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