#634 『燕の巣』

 家の玄関の上側に、ツバメが巣を作った。

 雛は四羽。親鳥はせっせと餌を運んでいる。

 時折、知らない女性がそれを見に来る。何も語らず、ひたすらそのツバメの雛を眺めているのだ。

 やがて雛は飛び立ち、親鳥もいなくなった。同時に役目を終えたその巣が、いつの間にかひっそりと落ちて壊れていた。

 母がそれを見て「片付けようかね」と箒とちり取りを持って来たのだが、割れて砕けたその巣に、いくつか妙な破片が混じっている事に気が付いた。

 拾ってかざす。それは小さく短い“何かの骨”だ。私は少し気になり、それを拾い集めて弟の帰りを待った。

「これ、人の手の指の骨だね」と、医学部の弟は言う。「しかも女性のものだ」

 すぐにそれは警察の手に渡り、捜査が始まったのだが、なにぶん鳥が拾い集めて来たものなのでその出所は全く分からず、結局何の進展も無いままにその捜査は終わってしまったらしい。

 石川県に住む、Mさんと言う女性の体験談である。

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