#152 『忌物・葛籠(つづら)』
この世に、“忌物(いみもの)”と呼ばれる存在がある。
名前こそ明かせないが、関東の某所にその忌物を預かってくれる寺がある。これはその寺に預けられた忌物の一つ、“つづら”と呼ばれる代物である。
見た目はうるしを塗った竹細工の箱である。大きさは電子レンジ程度とでも言えばいいのか、さほど大きいものでもない。但しこれがなかなか厄介で、葛籠を開ければ一回り小さい葛籠が中に入っており、それを開ければまた更に小さな葛籠が入っていると言うもの。そうして次々とそれを開いて行くと、とうとう最後は紙切れでぐるぐる巻きにされた小さな木箱が出て来る。しかもその木箱、巻かれた紙は普通のものではなく、全てが封印の為のお札なのである。
しかもそのお札、何度も剥がしてはまた貼り付けられとしているようで、過去に幾度も開けられた痕跡が残っている。
「中、ご覧なりますか?」言われて私は頷く。そうして出て来たその中身はスルメのゲソの部分のようなもの。それが箱の中びっしりと押し込められているのである。
「これは、“臍の緒”です」と、住職は言う。慌てて私は覗き込んだ顔を引っ込めた。
それはとある地方の重要文化財の中で発見されたものらしい。かつて宿場町であったその街に、それは建っていた。歴史的に貴重であると判断されたその建造物には、従業員の住む住居が隣接していた。葛籠は、その住居部分の天井裏から見付かったと言う。
重要文化財とは言うものの、それは地元では評判の幽霊屋敷だったそうで、夜な夜なその住居地帯から“鳴き声”が聞こえて来る、そんな場所だったらしい。
「よほど“業”が深かったんでしょうな、鳴き声はこのつづらから聞こえていたみたいなんですよ」と、住職は言う。
確かにそうだろう。これが臍の尾だと言うのならば、ここに詰まっている本数分だけ子供が産まれている事になるのだが――
「その建造物ってのは、遊郭だったそうです。つまり住居部分ってのはまさに女郎部屋だったんでしょうなぁ」
遊郭と言うならば、産まれた子は全て死産扱いで捨てられていた筈。要するに、産んだのだが産まれて来なかった扱いにされた子供達の臍の尾だと言う事になる。
鳴き声は、産声ではなく、女郎の上げる嘆きと絶望の声だったに違いない。
その重要文化財は、この葛籠が見付かって以降、幾度かのボヤ騒ぎの末に取り壊しとなったそうである。
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