#153 『忌物・穢れ玉』
この世に、“忌物(いみもの)”と呼ばれる存在がある。
名前こそ明かせないが、関東の某所にその忌物を預かってくれる寺がある。そこで見せてもらった忌物の一つに、見ただけで背筋がぞわぞわとするものがあった。それは女性の握った拳ほどもある大きな勾玉の付いた装身具(ネックレス)であった。
まず不可解なのが、普通ならば神道に属するであろうものがどうして寺に預けられているかと言う事。
「これはN県にあった新興宗教団体が所有していたものらしいのです」と、住職。
実際は元々、どこかの神社に納められていたものだったのだろうが、きっと盗品か何かをその宗教団体が買い取ったのでしょう。見ただけで歴史的価値のあるものだと分かりますと、住職は語る。
どうやらその装身具は、そこの宗教団体の神子(みこ)が、神託の際に首に飾っていたものらしい。だが、神道が何であるか、神子と言うものがどんな役目のものなのかをまるで知らない連中が金儲けのためだけにひらいていた宗教である。実際、聞けばほとんど脅しのような言いがかりで、信者達から金を吸い上げていた様子だった。
「元々はちゃんと神子様が正しい用途で使っていた装身具だったが為に、間違った使い方ばかりさせられて、邪気を吸い取りまくってしまったんでしょうなぁ」と、住職は言う。
結局、神子役の女性は痩せ衰え、最期は教祖を刺して自死までしたと言う。
だがどうしてこれが忌物としてこの寺に来たのかが分からない。聞けばそこからがこの装身具の悲しい末路となったらしく、事の顛末を教えてくれた。
亡くなった神子は、教祖と共にその宗教団体の施設の敷地に、信者達の手によって埋葬されたらしく、しかもそれが土葬であったがために今日まで残っているのだと言う。しかもその埋葬方法は棺にも入れられずに、直接土の中へと放り込まれていたと言う。
それが最近になって地中から掘り出され、事件の全貌が明るみに出るも、元々カルトであった教団と言う事で信者の行方も定かではなく、密かに闇に葬られた事件となったらしい。
「そうしてこの装身具だけは再びどこかの神社へと戻される事になったのですが――」
どうしてもその装身具を持った人間は、神社の鳥居をくぐれなかったと言う。
以降その勾玉の装身具は、“穢れ玉”と呼ばれ、神道では預かれずにこの寺へと来たのだと教えてくれた。
「ちょっと触ってみますか?」と、住職さんは私にその穢れ玉を差し出す。私はそれを丁寧に断った。
「そうですか」と、それを持って立ち去ろうとしている住職さんの掌の中で、まるでその装身具自体が蛇であるかのように蠢いているのを、私は見逃さなかった。
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