#151 『忌物 ・ 異形の壺』
この世に、“忌物(いみもの)”と呼ばれる存在がある。名前の通り、禁忌に触れる代物であり、呪法師が用いて使う“呪物”も、それに該当する。
名前こそ明かせないが、関東の某所にその忌物を預かってくれる寺がある。そこに収められている忌物の中でも特別に危険なものがいくつかあり、その中の一つが、“ヤマギ”と呼ばれる小さな青磁の壺がそれである。
「中身は人骨です」と、そこの住職は言う。何でも明治から大正に掛け、十数人もの人の命を殺めた死刑囚の骨らしい。
この忌物、特殊中の特殊な部類のもので、持ち主を百パーセント呪殺してしまう事で有名で、「御本尊様の懐(聖域の事)に置いてようやく収まっておる代物です」と、住職も困った顔を浮かべる。
最初の犠牲者は、死刑執行後に遺骨を引き取った両親だったらしい。それ以降、その壺に触れる者は全て短い期間で呪い殺されるそうで、その力が噂となったか、遺骨は三つに分けられ、それぞれ名のある呪法師の元へと渡った。
なにしろ殺傷力が百パーセントなのだ。呪法を扱う者にとってはこれほど有利に働くものは無いにせよ、結局は諸刃の剣で呪法師自身にも危害が及ぶ事が後になって分かった。
そうして今度は手放され、あちこちにたらい回しにされた挙げ句、その内の一つがここに来たと言う訳である。
元は殺人者だと言うだけあって、凄い威力ですねと聞けば、「そんなん生易しいものでも無かったですよ」と住職は言う。なんでもそこの寺の先代住職、一度気になってその壺を開けて中をあらためた事があるらしい。
「骨は骨でも、普通の成人男性のものじゃなかったそうです」と、住職は言う。
頭蓋骨は歪み、後頭部は伸びきっており、身体のあちこちの部位もまた、尋常ではないねじ曲がり方をしていたと言う。
どう言う事かと聞けば、「おそらくはこれ、奇形の子供の骨でしょう」と住職は話す。これはあくまでも推測の域を出ないが、ここまで呪いの力が強いのは、生前もまたおそろしいぐらいに呪いに精通していた証だと言う。
かつて、毒虫を一つの壺に入れ、一番強い毒のものだけが生き残ると言う、“蠱毒”の話をした後に、こう告げた。
「もしかしたら、異形の人の子集めて、そんな真似をした密教があったのかも知れませんね」と。
一体どこですり替わったのか、“ヤマギ”と呼ばれるその壺の中には、まるで違う異形の者の骨が入っている。
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