#150『Doppelgänger(重なって歩く者) 』
小さい頃から、周囲で奇妙な現象が多発する、とある女の子の体験談である。
「Mちゃん、さっき○○公園の前歩いてたよね」と聞かれ、その女の子は渋々「うん」と頷く。実際はそんな場所、通ってはいないのだ。
だが、そう言う事を言われる状況があまりにも多すぎる為、そのMちゃんはいちいち否定する気にもなれず、そう言う場合は必ず「そうですね」で済ます事にしている。
そう言う体験は本人だけにとどまらず、その子の両親にまで及ぶ事がある。
「Mちゃん、○○の辺りでお友達と遊んでいたけど、遠い場所だし、大丈夫かなと思って」
「あ、さっきお嬢さんここの前通りましたよ。なんかボーイフレンドと一緒だったけど」
だが実際は、ほとんどその子本人の事ではない。そう言う話を聞く度に、本人であるMちゃんは溜め息を吐き、「何が起こってるんだろう」と首を傾げるばかりであった。
それでもMちゃんは無事に成人を迎え、今は大学へと通いながらも仕事を二つも掛け持ちしている。
だが、例の現象は相変わらず続いており、先日も仕事場で、「さっき店内で買い物していたでしょ?」と、パートのおばちゃんに言われる始末。実際は今出勤して来たばかりなので、それはMちゃん本人の事ではないのだが、いつも通りに「そうですね」で済ましたらしい。
ある日の事、Mちゃんは父親にこう相談した。「もしかしたらウチって、“もう一人”存在しているのかも」と。そして相談を受けた父親は、知り合いの陰陽師にその話をそっくりそのまま話してみた。するとその陰陽師、「もう一人はいません」と言う。次いで「もう二人おります」と答えた。
どうやらそのMちゃん、過去に二度ほど強烈なトラウマから来る自己の決別を意識しており、その決断が“あり得ない”もう二つの未来を作り出しているのだと言う。要するに、Mちゃんは今、自らが決断した未来に生きており、もう二人いる同じ存在は、決断をしなかった未来を生きている自分自身なのだと言う事らしい。
その現象をドイツでは「Doppelgänger(ドッペルゲンガー現象)」と言うらしく、意味は「重なって歩く者」。要は同じ次元の中を重なるようにして存在してしまっているとの事である。
父親は、「もしそのもう二人と出逢ってしまった場合にはどうなるのか」を聞いた。すると、「もう一人」と逢うだけならば、自然に修復が出来るが、「もう二人が同時に」だった場合、大いなる矛盾が生じてそのMちゃん自体がこの世界に存在しない事にされるらしい。
もっとも、同時に三人が顔を合わせる確率は宝くじの一等を連続で十回当てるぐらいの確率なので心配しなくてもいいと言われたのだが、娘の事を思う父親としてはなかなかの不安材料である。
――と言う、筆者の実の娘の話。
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