#302 『透ける』
会社に、やたらと写真を嫌がる子がいる。名前をR子と言う。
R子は自力で証明写真などを撮って来るぐらいは良いらしいのだが、もしもふざけてスマホを彼女に向けようものなら、鬼のような形相で怒鳴り出す。ついでに言えば、記念写真を撮られたくないが為に、会社での旅行やレクリエーションにすら出たがらない。それほどまでに写真を嫌う女の子なのだ。
ある日、仲の良い同僚だけで飲み会をセッティングしたのだが、そこには例のR子もいた。
普段はとっつきにくいR子だが、酒の席はそれほど嫌いでもないらしく、いつになく饒舌だった。
「ねぇ、R子。もし嫌じゃなかったら、どうして写真が嫌いなのか教えてくれない?」と、同僚の一人が言う。するとそのR子、少しだけ考えた後、「じゃあ撮っていいよ」と席を立ち、気合いでも入れるかのように両腕の袖をめくる。
R子は店の壁の前に立った。写真は、私が撮った。
見て、すぐには気付かなかった。だが、同僚の子の一人が小さな悲鳴を上げたのをきっかけに、誰もが口を押さえて這い出て来る声を無理に飲み込む。
スカートから覗く筈の両足が無かった。しかも袖をめくった左手までもが無く、その背後にある壁が透けて見えていた。
「昔からこうなんだよ」とR子は言う。十枚も撮れば、その半分はこんな感じらしい。
おかげで学生時代のあだ名は“心霊ちゃん”。彼女を撮った何枚かは、インターネット上で今も流れ続けていると言う。
「お祓いとかしてもらったら?」と誰かが言えば、「とっくにやってる」とR子。今までに何度となく試みたが、効果があった試しがないらしい。
それから少ししてR子は会社を辞めてしまい、それきり彼女とも疎遠になってしまった。
風の噂では年下の男性と結婚したと言われているが、結婚式の写真はどうしたんだろうと、私はぼんやり考えた。
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