#303 『動画編集者』
高校の同じクラスの友人達が、心霊系YouTuberを始めた。
最初は俺も誘われたのだが、怖い系が苦手なので断ったと言う経緯がある。
動画は二本上がった。どちらも近所で噂されている心霊スポットを巡ると言うだけのもので、無駄に効果音を多く取り入れているのが、俺的に好きではなかった。
動画の編集は、イトイと言う奴がやっている。実際、カメラもパソコンも、そして動画編集ソフトも全てイトイが持っているからこそ成り立っているのであって、ほとんどはイトイが一人で作った監督作品みたいなものだった。
ある日の事、イトイが「一人でロケハン行って来る」と言って、放課後にはそそくさといなくなった。その夜――
ポロンと音をさせて俺のスマホにメッセージが送られて来た。覗いてみればそれはYouTuberのメンバーの一人で、「イトイから来たんだけど」と添えられてある。
データは動画だった。しかも編集が入る前の、撮ったままのものだ。
“とんでもないものが映ってた”と、イトイのものだろうコメントが付いているので観てみたが、それらしきものは何も無い。
「どこが“とんでもないもの”なんだ?」と返せば、「俺らも良くわかんねぇんだ」と、友人から返事が来た。
動画の内容は、どこかの廃墟をライトで照らしながら歩いて映していると言うだけのもの。
特に変わったものが映っている訳でもないし、僅か十秒足らずで終わってしまうようなものだった。
翌日から、イトイは学校に来なくなった。友人達がメッセージを送っても何も返っては来ない。担任は、「家庭の都合で」と、詳細を教えてくれない。
半月程過ぎた頃、教室で友人の一人が、「イトイだ!」と声を上げた。
彼のスマホを覗き込めば確かにイトイからのメッセージ。「もう俺は限界だ」と書かれている。
「どうした?」と返せば、「もうどこを向いても“アレ”が見える」と言う。
「アレって、なんだ?」聞けば、「前に送った動画に映ってたやつだ」と来る。
どうにも様子が飲み込めない。「放課後、逢えないか?」と送ったら、少しだけ時間を置いて、「分かった」と送られて来た。
「もう、鏡に限らずどこのガラスを見ても“アレ”が映るんだ」と、イトイ。
僅か半月足らずでげっそりと痩せ細ったイトイは、「あんなもん撮るんじゃなかった」と両手で顔を覆った。
それからしばらく、イトイの言う“アレ”について質問を重ねたが、やはり明確な答えは返って来なかった。
ただ、「最初の動画の窓ガラス全てに映っていた、“アレ”だよ」と言うので、後でその動画を見返してみたが、やはりなんの変哲も無い。
むしろそこに映る廃墟の窓全ては、既にガラスは割れて落ちていて、一枚も残ってはいなかったのだ。
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