#104 『報道関係者・水路』
私は報道関係の仕事をしている。ある時、某県の地下放水路の記事を書く事になり、取材へと出掛けた。
地下神殿とも呼ばれるその巨大さに圧倒されつつも案内係の人の説明を受けていると、遙か向こうの石柱の影から女性が出て来て、反対側の石柱の影へと消えて行った。
「あれ、僕以外にも見学の人、いるんですね」何気なくそう聞くと、案内人の方は苦笑しながら、「あぁ、いえ、違うんですよ」とばつの悪そうな顔をした。
最初はここの係員や清掃員の方達も、相当に慌てたらしい。関係者以外はどうやっても入れないこの空間を、普通に歩いている人達がいたりするからだ。
「あれ……もしかしたら人じゃ、ない?」聞けば案内の方は頷く。
「こう言うの見ちゃうと、事故物件とか言って怖がってる人達って何を恐れてるんだろうって思っちゃいますよね。だってここ、おそらくは数百年間、誰も死んだりした事の無い空間なんですよ」
亡くなった人の有無は関係無く霊は出ると、案内人の方はそう言うのだ。
言ってるそばからまた遠くの方で別の姿の人影が見えた。それはまるで駅に向かって急いでいる人のようにテキパキとしていて、とても霊っぽくは感じられなかった。
「ここは記事にしないでくださいね」と、案内人。「書いたって、誰も信じてくれないでしょうしね」と笑う。
水の流れ着く場所には、人も流れ着くものなのだろうか。
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