#105 『報道関係者・父』
私は報道関係の仕事をしている。亡くなった父も同じ仕事をしていた。
まだ私がこの職業に就く前、父は私にこんな話をしてくれた。
「報道カメラマンをしていると、時々とんでもないスクープ写真撮れちゃうんだよ」と。しかもそれは、紙面には絶対に出せない類いのスクープ写真なんだそうな。
父にとっては忘れられない数枚の写真があった。「そろそろ見せてもいいだろう」と、父はその写真の束を私の目の前に置いた。それは某駅前で起こった通り魔殺人事件の直後の模様。路上で一人の男性が胸を刺されて倒れていると言う写真なのだが、その遺体の横には倒れている男性を覗き込んでいる別の男性の姿が写っている。
「これ、亡くなった人、そのものなんだよ」と父は言う。見れば確かに、倒れている人と同じ服装だし、顔つきもいかにも同一人物のようだ。
「他人のそら似では?」と聞けば、「次のも見てみろ」と言う。
見ればその男性は、立ち上がって頭を抱え、その状況に絶望をしている場面だった。
次の一枚を見れば更に状況は変わって、男は周囲の人に話し掛けるも、誰も相手をしていない様子が分かった。そんな写真の束を次々と見て行けば、一枚、妙な感じのシーンがあった。野次馬で遺体を覗き込んでいる人の一人に、亡くなった男性が逆に下から顔を覗き込んでいると言うもの。そして次の一枚には、立ち去るその男性の後を追う、亡くなった男の姿。
「これ、そのまま警察に提出したんだよ」と父は言う。
この写真を証拠として使う事は出来なかったが、犯人を特定するのにはとても有利に働いたらしい。
「同じ職場の先輩のアドバイスでね、事件が起こったらその周囲のものも撮れって言う意味が凄く分かった」と、父はそう話してくれたのだ。
今はこうして私も父の意志を継ぎ、報道関係の仕事をしている。
嫌われる事も多い職業だが、私もいつか誇れる父のような人間のようになりたいと願っている。
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