#563 『イモウト』
母が妊娠した。どうでも良い事なのだが、母は高齢出産にも関わらず、私とは十八歳も年の離れた女の子を産んだのだ。
妹は“彩香(あやか)”と名付けられ、すくすくと育った。
彩香は小さい頃から“不思議ちゃん”で、時折何も無い空中を眺めてみたり、誰もいない空間に向かって話し掛けてみたり、突如激しく大泣きをしたりする事があった。
そうして彩香が四歳になった頃、興味はもっぱら絵を描く事らしく、暇さえあれば画用紙とクレヨンで何かを描いていた。
最初は“丸”だった。丸から下に伸びる線を引き、そんな図が並ぶ絵ばかりを描いた。
そして彩香はやけに私に懐いており、「ねぇたん」と言いながら私の部屋へと来て、そこでお絵かきをするのが常だった。
次第に彩香の絵は向上して行き、そこに何が描かれているのかが判別出来るようになって来る。彩香はいつも人の絵を描き、それを大事に私の部屋の押し入れの中にしまって帰るのである。
ある晩、真夜中に目が覚める。どこからかは分からないのだが、遠くに人のうめき声のようなものが聞こえたのだ。
ベッドの上、身を起こす。何となくだがそれは押し入れの中から聞こえるような気がする。
照明を点け、襖を開ける。だが特に変わったものは無く、下の段には彩香の絵が重なる一画が目に留まるばかりであった。
「私、何も憑いてないよね」と、父親であるシンゴさんにそう聞いた。彼は一年前に母が再婚した新しい父であり、彩香の実のパパでもある。
「うぅん、特に何も見えないけどなぁ」と、シンゴさんは言う。なんでも彼は親類に高名なお祓い師がいる家系らしく、普通の人よりは霊の類が視えるらしい。
そんな人であっても、「特に何も無い」と言うのだ。きっと私の錯覚だろうと言う事で落ち着いた。
それからも彩香は毎晩のように私の部屋へと来るのだが、やはりそこで人の絵を描く事は止まず、ある日の晩何気なく「誰の絵を描いてるの?」と聞けば、なんと彩香は「ねぇたん」と言うのだ。
だが、その絵には私一人ではなく複数人いる。私は恐る恐る「他は誰?」と聞けば、「お友達」と言うのだ。
「シンゴさん!」私は慌てて父を呼ぶ。すると飛んで来た父は、押し入れを睨んで「何かいる!」と叫ぶ。そして押し入れを開けるや否や、彩香の描いた絵の束を取り出し、「こりゃとんでもないぞ」とすぐにそれを持って外へと飛び出した。
泣く彩香を無視し、父はその絵を次々と燃やす。全てを焼いた後、シンゴさんは私に向かって「あの子はヤバい」と苦笑した。
どうやら彩香は目で見た霊を絵に閉じ込める能力があるのだと言う。
そして更には、私の部屋は霊道か何かになっているらしい。部屋と言う事もあり、霊が落ち着く場所なのだと説明された。
以降も彩香は私の部屋で絵を描く事が多かったのだが、父の懸命の説得が利いたか、描いた絵を燃やす事に抵抗は無くなったらしい。
だが困った事に学校へ上がってもその癖が直らず、学校で描いた絵も、燃やしたがってしまうのである。
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