#558 『死骸』
それはもう間もなく、深夜の零時を回ろうとする頃の事だった。
私達夫婦は、運動の為にとウォーキングするのが日課であった。その日は夫の帰りが遅く、必然的にそんな時間となってしまったのだ。
歩くのは近所にある大きな池のある公園。その池をぐるりと一周して帰って来るのがいつものコースであった。
さて、歩いて間もなくの事。どこからか妙な物音が聞こえた。私達は耳だけを頼りにその音を辿って行くと、それは公園各地に供えられているゴミ箱の中から聞こえて来ているようだった。
ガリガリ――バリバリ――と、まるで何かを引っ掻くかのような音。
覗けば中に詰まったゴミが、音に合わせて微かに動いているのが見える。
なんとなくだが、小動物か何かのような気がした。そしてそれは夫も同じ意見だったらしく、「猫か何かいるな」と呟き、どうにかして助けようと二人で画策した。
だが、不用意に手を突っ込んで怪我をする訳にも行かない。結局、あまり感心した事ではないのだが、ゴミ箱を蹴って倒し、救出する方法を選んだ。
倒れるゴミ箱。散乱する中身。その中に一つ、見るからに怪しげな黒いポリ袋の包みがあった。
想像した通り、音の原因はそのポリ袋の中からのようだった。
ガサガサガサッ――と動き、そして止まる。いかにも猫か何か、小動物が詰め込まれている感覚があった。
袋は厳重に口が結ばれており、そのまま放置していたら確実に酸欠で死んでしまうだろう。夫は、「解いて来る」と言ってその袋に近付くが、それはやけに妙な結び目で、素人には容易に解けそうに無く、仕方無しに夫は袋を破こうとその袋を持ち上げた――その時だった。
「うわあああああ!」
夫の悲鳴が上がる。見ればその袋は何故か夫の手首に絡み付いており、私は咄嗟に中の動物が袋越しに噛み付いたのだと思ったのだ。
だが、良く見れば違った。袋はしっかりと夫の手首を“握り締め”ており、それはいかにも人の手がそれを掴んでいるかのようにしか見えなかった。
私はその袋に飛び付き、力尽くでそれを引き離そうとする。そしてその甲斐あって袋は夫から離れて落ちたのだが、尚も袋は何かを探しているかのようにガサゴソと地面の上を這って動き回っていた。
私達は急いで家へと帰った。そしてあらためて夫の手首を見れば、そこにはしっかりと人の手の跡と、引き離した際に付いたのだろう爪痕が残っていた。
翌日、その公園には大勢のパトカーと警察官が押し寄せた。何でも公園内のゴミ箱からバラバラに切断された遺体が発見されたと言う事だった。
奇しくも、私達夫婦はその遺体の第一発見者であったらしい。
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