#709 『目の上のたんこぶ』
大学の友人のU子がどうしても逢いたいと言うので、指定された喫茶店へと出向いた。するとそのU子、驚いた事にその顔面の鼻の上辺りに、大きな瘤(こぶ)を作っているのだ。
それは目と目の間。おでこと鼻の中間辺りである。見た感じ、それはとても大きく、目立つ瘤なのだ。
「なにそれ、早く病院行って取っちゃいなよ」
言うとU子は、「もう取った」と言う。取って一週間もしたらまたこうなってしまい、しかも前に出来た瘤よりも大きくなったとの事。
「じゃあどうするつもりなのよ」聞けばU子は、「だからあんたを呼んだんじゃない」と言う。
理由はこうだ。私の知り合いの霊能者に、この瘤を見てもらいたいと言う事。
確かに私には霊能者の知人がいて、その事を大学時代に話した事があった。それをU子は思い出し、連絡をくれたらしい。だが――
「知ってるって言っても、逢った事もなければ話した事も無いよ。単に昔付き合ってた彼氏の姉って言うだけなんだから」
それでもいいから紹介してくれと言うので、渋々私は元彼と連絡を取り、その姉の連絡先を教えてもらった。
後日、私とU子はその姉の家を訪ねた。どうやら霊能者として仕事をしているらしく、事前にそれなりの金額を言い渡された。
そしてその姉――キヨミさんは、U子の顔を見るなり、「ご両親は?」と聞いた。
するとU子、「両親共におりません」と告げると、キヨミさんはすぐに「それだ」と目を見開き、「あなたの両親、そしてご先祖様達があなたを怒っています。もしかしたら供養を怠っていますね」と言うのだ。
「お仏壇は?」
「持っておりません」
「じゃあ、遺影や位牌は?」
「それもありません」
するとキヨミさん、かなりの大声で、「なんて酷い子なの!」とU子を叱り飛ばした。
「今すぐお仏壇を購入し、ご両親の位牌を作りなさい。出来ないのならば私の方で手配します。まずはあなたに憑いているご先祖様達を鎮めないと――」と言った所で、今度はU子が大声を上げた。
「なんだそのインチキ霊視は! 私に両親はいないと言ったけど、私は元より孤児で、両親が誰なのか分からない以上、先祖もクソもあるか! 適当な事言ってんじゃねーよ!」
言うとキヨミさんの顔は蒼白となる。U子はさんざ罵っておいて、茶封筒に入った祈祷料を置いて家を出た。
それから僅か数日で、「瘤、無くなった」とU子から連絡が来た。驚いて見に行けば、確かにそこには瘤の痕どころか前に切った手術跡さえも見付からない。
その後、U子はキヨミさんに謝りたいと言うので連絡を取ってみたが、どうしても繋がらない。慌てて今度は元彼に連絡をしてみると、「ちょっと顔にでき物が出来てしまって」と言い残したきり、連絡が取れなくなってしまっているらしい。
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