#252 『棺桶屋』
昭和以前のお話し。山に、“棺桶屋”と呼ばれた奇人が住み着いた事があると言う。
何故、棺桶屋と呼ばれたかについては、単に棺桶ばかり作っている人だったからだと聞く。
別にそれを商売にしていた訳ではないらしい。ただとにかく、木を切って削って、棺桶を作る。山に籠もってそんな作業ばかりしていた人だったと言う。
何でそんなに棺桶作るんだと、麓の村の人が聞いたなら、「うるせえ」と一喝したらしい。そんな態度なものだから、誰もその棺桶屋には近付かなかったそうだ。
ただ、その量たるや物凄いもので、たまにその近くを通り掛かると、山中に高く積まれた棺桶の山が見えて来るぐらいだったと言う。麓の村の人達はそれを眺め、「自分で入るための棺桶なんだろう」と、悪態を吐くぐらいだった。
ある日突然に、棺桶屋は姿を消した。一ヶ月も経つと噂は村中に広まっており、誰もがその棺桶屋の安否について語り合った。
やがて月日が経ち、季節は梅雨の時期となっていた。積まれた棺桶は風雨にさらされ、黒ずみ、カビが生えるまでになっていた。
「あの棺桶、片付けよう」と、声が上がる。賛同した何人かが連れ立って山へと登る。
山中に煙りが上がる。おそらくは現地で棺桶をばらし、燃やしているのであろう事が推測出来た。
その作業が始まって数日後、登って行った全員が血相を変えて降りて来た。
「棺桶屋、見付けた!」
皆が見に言ってみると、積まれた棺桶の一番下の段の棺から、彼の遺体は出て来たと言う。
何故かその棺に寄り添うようにしてもう一体、知らない女性の遺体が横の棺から見付かった。二体共外傷は無く、眠るようにして亡くなっていたと言う。
ただ、どうして亡くなったのか。そして誰が山の一番下にある棺にそれを納めたのか。そしてこの梅雨の時期に腐りもせずに遺体がそこにあり続けたのか。
何もかも未解決のままではあったが、結局棺の山は放置され、それから十数年はそこに積まれたままだったらしい。
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