#442 『見えなくなる』

 大型商業施設にて、深夜勤務の警備員をしている。

 とある日の事。当番だった男性が急遽来られなくなったとの事で、その晩は僕一人の勤務となってしまった。

 一人で宿直なのは何度もあった事なので、それほど悩む事ではない。ただ、少し前に起きた不可思議な事件のせいで岸田君と言う大学生の子が辞めてしまった。要するに、一人でいる時に妙な事が起きたら怖いなと言う、それだけの懸念である。

 だが――事は起きた。深夜も一時を回った辺りである。突然のアラーム音で驚きながらモニターを確認すると、本館最上階にある屋上駐車場に繋がる通路に、異変があったらしい。カメラが“不審な動きをする何か”を感知した表示が出ていたのだ。

 嫌だなぁと思いながらそこのカメラへと切り替えると、確かに異変はあった。等間隔に並ぶ丸い石柱を斜め方向から撮っているのだが、とある箇所の石柱の陰から、ひょいと持ち上がる人の手が映り込んでいるのだ。

 さすがに、「うひゃあ」と妙な声が出た。行きたくはないが、行かなきゃいけない仕事である。仕方無しに帽子をかぶって懐中電灯を持って、そこに至るまでの通路全てに照明を灯し、恐る恐ると引け腰な体勢でそちらへと向かった。

 さて、問題の場所へと着いたのだが、見る限りではどこにも人はいないし、飛び出る腕も見当たらない。一応はと、全ての柱の裏側を確かめながら端まで移動するも、やはり異常は見付からない。

 錯覚だったかとモニター室へと戻れば、やはり先程と同じ場所に腕がある。

 今度はその場所をしっかりと確かめるべく、宿直室に誰かが忘れて行ったのだろう黒い傘を持ってそちらへと向かった。

 さてこの辺りだったかと、目星を付けた辺りの柱に、その黒い傘を立て掛けて戻った。

 そうして再びモニターを確認すれば、まさしく僕が立て掛けた柱の真横から、例の腕が突き出ていたのである。

 たった二往復しただけなのに、妙に汗が流れ落ちる。

 場所は特定出来た。だがもちろん、その傘を取りに行く勇気は、朝日が昇るまで湧く事は無かった。

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