#441 『憑いて来る』
大型商業施設にて、深夜勤務の警備員をしている。
規模が規模だけに、夜でも二人態勢だ。だが幸いなのは、巡回等の仕事は不要である事。ただ、モニター室で全てを見張り、問題が無いかチェックするだけの仕事なのである。
その夜の当番は、僕と、後輩の岸田君の二人だった。岸田君はまだ大学生で、学費の為にこんな仕事を請けているらしい。
深夜も、零時を過ぎた頃。僕らはお互い、スマホを片手にゲームをしながら他愛もない世間話をしていた。
そこで突然のアラーム。見ればとあるモニターの一つに、建物の中を歩く一人の少女の姿が映し出されていた。
その子は制服姿で、中学生か高校生だろう、心細げにとぼとぼと真っ暗な通路を歩いている。
僕はすかさずマイクを取って、全館に伝わる音量で、その子に呼び掛けた。
「今そちらに向かいますので、その場で待機していてください」
僕は滅多にかぶらない帽子を身に付け、「誘導を頼む」と岸田君に見張り役を預け、懐中電灯を持ち現地へと向かう。
場所は三階の南側の通路だ。あの辺りに大きなフードコートがあるので、おそらくはそこのどこかに身を隠していたのだろうと察せられた。
「場所は動いてない?」と無線で聞けば、「動いてません」と、岸田君の返答。だが、現地へと着けばそこには誰の姿も無かった。
「岸田君、あの子はどっちへと向かった?」聞くと少しの間ためらった後、「先輩、もうこちらに戻られては?」と、頼りない声で言うのだ。
「どうして? 見付けて保護しなきゃいけないだろう」
「先輩、多分それ……無理ですから」
その言葉に、感じる部分はあった。僕は「そっちに戻る」と返し、早足でモニター室へと向かう。途中、全館の照明が一斉に点灯した。岸田君が点けたものだろう。その明るさが、逆に不安なるぐらいだった。
モニター室は鍵が掛かっていた。僕がドアをノックすると、ややあってドアが開かれる。
例の女の子は、僕がそちらへと向かって間もなく、映し出している監視カメラを見付けて顔を近づけて来たそうなのだ。
女の子の顔がモニターに大映しになる。カメラは、三メートルもの上の天井部分に取り付いているにも関わらずである。
やがてその顔の余白部分に、僕の姿が映ったそうだ。それから僕がモニター室へと戻り始めると、その背後に少女がぴったりと寄り添いながら付いて来たらしい。
「だから照明を点けたのか」と僕。岸田君はほとんど涙目になりながら頷いた。
そこで再びのアラーム。見れば先程の少女が、真っ暗な通路を歩いている姿が目撃された。しかもその足取りには迷いが無く、ひたすら僕らのいるモニター室へと向かっている。
慌てて僕達は、もう一度全館の照明を点けた。その晩は、後日にどれだけ怒られようが、始末書を書かされようが、決して照明は消せないと思った。
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