#631 『窓の向こう』
昔、引っ越したマンションの向かい側に妙な女がいたんだよな――と、友人のKは語る。
聞き手は私、筆者である。
Kは仕事柄、起床が凄く遅い。昼頃に起き出し仕事場に向かい、帰りはそのちょうど十二時間後となる。
なのでKは安定した睡眠の為、窓は常に遮光のカーテンを閉めている。当然、昼近くにそのカーテンを開け放つのだが、道路を挟んだその向かいのマンションの同位置の部屋が、同時に勢い良く閉められるのだ。
Kがその事に気付いたのは引っ越しをして二週間目ぐらいの事だったらしい。以降、Kがカーテンを開けるそのタイミングで、向かい側のカーテンが閉まる。それが毎日続いたのだと言う。
だがさすがに毎日と言うのはおかしい。もしかして向こう側は俺がカーテンを開けるのを待ち構えているのではないかと疑い始めた。
そこでKは、カーテンを開ける前にそっとその隙間から向こうの様子を伺った。すると、いた。向こうの窓のガラスに映るショートカットの髪の女性の姿。それがじっとKのいる部屋の方を向いて待ち構えているのだ。
あれは危ない女だなとKは悟る。それから少ししてKは再び引っ越しをした。次は比較的仕事場に近いアパートへと移ったと言う。
「あれ、もしかしてストーカーだったのかな?」とKは笑い、怪談にはならん話で申し訳無いと詫びるのだが、彼の住んでいたマンション名から割り出した向かい側の部屋は、某事故物件サイトにも載る有名な心霊スポットであった。
出来ればこの話は、Kの目に留まって欲しくないなと私は願う。
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