#630 『テントの中の少女』
群馬県にある、某キャンプ場へと向かった際の出来事。
それはかねてより夫と二人で計画していたもので、それ用にと大型テントを購入した。
人混みを避けたいが為、平日に休みを合せて現地へと向かった。到着すると同時にテントを建て、かまども用意。後はただひたすら飲んで食べて夜を迎えるだけ。
でもそれだけでは物足りないだろうと、夫と私は近くにあると言う滝を見に行き、再びテントへと戻る。だが――
「誰かいる」と、夫は言う。言われて見てみれば、確かにメッシュの布地を通してテントの中に誰かがいるのが見えるのだ。
女の子だと、私は咄嗟に思った。だが、「誰なの?」と聞いても返事が無い。どころかこちらに背を向け振り返ろうともしないのである。
「おかしいよ」と、夫。言われて私も気付く。そのキャンプ場にはテントが一つ、私達の建てたそれだけである。要するに、私達以外の宿泊客は誰もいないのだ。
これはまずいと咄嗟に思った。だがテントを畳んで帰る訳にも行かない。少女は依然、そのテントの中にいるのである。
どうしようかと悩んでいると、一台の車がやって来て、若い男性二人がすぐ近くにテントを張り始めるではないか。
そうして束の間の時間が過ぎ、今度はそちら側のテントで何かが起こったらしい。先程の若者二人が「誰?」と、中を覗き込みながら叫んでいるのである。
見ればいつのまにか私達のテントの中は無人となっている。すかさず私と夫は片付けを始め、車に詰め込み現地を後にした。
その晩は近隣の道の駅に停まった。もちろん車中泊である。翌日、凝った足腰をさすりながら、その道の駅に付属されている温泉へと向かう。
風呂上がり、施設内に放送が流れた。読み上げられた車の番号を聞き、ウチの車だとすぐに気が付く。
管理事務所に行き、「何かありました?」と問い合わせると、「子供一人を車内に放置するのはいただけないでしょう」と怒られた。
私と夫はそれを聞き、上手く返答が出来なかったのである。
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