#629 『鴉の朝』
まだ早朝の暗い内だったと思う。
やけに外がうるさい。家のすぐ近所で、大勢の鴉が大騒ぎをしているのだ。
最初はまだ睡魔の方が上回っており、夢うつつの中で「騒がしいなぁ」程度で済んでいたのだが、とうとうそのけたたましさが勝ち、私はすっかりと目が覚めてしまった。
と同時に泣き止む鴉の鳴き声。時計を見れば六時を少し回った時刻。
もう寝るには危ない時間だなと、私は仕方無く起き出した。
朝食をとりながら、「やたらとカラスがうるさかったよね?」と母に聞く。だが母はまるで気にならなかった様子で、「そうなの?」と聞き返して来るのだ。
さて、その出勤時。もう間もなく会社だと言う辺りで、その歩道の先の方に二羽の鴉が止まっていた。
何故か鴉はじっと私を見つめ、動こうとしない。私は今朝の事もあり、なんとなく鴉を避けたいなと思い、一つ手前の路地を曲がって会社へと向かった。
そうして路地を抜ける直前、大通りの方からけたたましい衝突音が聞こえて来る。
見に行けばその通りでタクシーと乗用車が正面衝突しているではないか。
もしも先程、あの二匹の鴉に行く手を阻まれなかったら、巻き込まれていてもおかしくないタイミングだったのだ。
それから数ヶ月後の事、またしても鴉の鳴き声で目が覚めると言う事があった。
なんとなく不安を持った私は、仮病を使い会社を休む事にした。
さぁ二度寝するぞと布団に潜り込むも、けたたましい町内放送にその眠気を奪われる。
放送は、町内に包丁を持った男がうろついていると言う不審者情報であった。
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