#628 『時々現われる地下への階段』
かつてメキシコに住んでいたと言う、ヘレンさんと言う女性の方のお話し。
筆者が怪談を書いていると言う事を知り、「私も一つだけそう言う話を持っている」と、母国に住んでいた時の体験談を語ってくれたのである。
――我が家のすぐ傍に、祖父母が暮らしている家がある。
かつては父がそこに住んでいたにもかかわらず、滅多にその家に帰ろうとしない。私は子供心にそれが不思議でたまらなかった。
ある時、母が祖母に用事があると言う事で、私も一緒に付いて行った。
祖父母は私達の訪問をとても喜び、お茶やお菓子を振る舞ってくれた。
だが子供だった私は、お腹が満たされると親達の会話に飽きてしまい、「外で遊ぶね」と一人で玄関へと向かった。
そこに、見慣れない階段があった。玄関横から通じる、地下へと降りる階段である。
果たしてこんな階段あったかなと、私は思った。なにしろ好奇心の旺盛な年頃である、もしも以前にその階段の事を知っていたなら、当然真っ先に興味を抱く筈なのだ。
覗き込めば数段から先は暗闇で、その先がどうなっているのかはまるで分からない。
すると下から吹き上げて来る風に乗り、男の人の声が聞こえるではないか。
「誰?」と、私は聞く。するとその声は、「お前こそ誰だ」と問い返して来る。
何度かの応答の後、「降りて来てくれ」と言われ、私は渋々と階段の一段目を降りた。同時に背後から駆け寄って来た祖父に抱き留められ、「行っちゃいかん」と怒られた。
夜、帰って来た父と祖父とが、喧嘩に近い口論をしていた。子供心にそれは、私のせいだと直感していた。
帰り際、例の地下へと降りる階段の方を見る。――が、そんな階段などどこにも見当たらなかったのである。
後日、私はその件について両親に尋ねた事がある。
だが両親の答えはとても簡潔で、「もう二度と向こうの家に行っちゃいけない」と言うもの。
そして今以てその時の事を、両親は説明してくれないのである。
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