#40 『オクラホマミキサー』

 私がまだ二十代だった頃、とある地方の小学校の担任をしていた事があった。

 運動会が近付いたある日の事、体育でダンスの練習をする予定だったのだが、生憎良い場所が見付からなかった。体育館では五年生が玉入れを。グラウンドでは六年生がリレーの練習をしていたせいだ。

 すると教頭の薦めがあって、普段は使用していない旧校舎の校庭を貸してもらえる事となった。そうして私が担任する四年生はそこへと移動し、生徒達に男女混合のペアを組ませたその時だった。

「先生、一人余りましたー!」

 見れば男子生徒が一人だけペアを組めずにいた。――だがおかしい。四年の生徒は男女共に同人数の筈。その日は誰も休む事なく全員が登校している筈だし、体調が悪くて欠席している者も無い。

 ざわざわと、一体誰が来てないんだと、にわかに犯人捜しが始まる。そうなるとあっと言う間に練習の時間など無くなるのが目に見えていたので、私は咄嗟に、「じゃあ先生も入ります」と、皆の関心を無理矢理に断ち切った。

 やがて曲が流れ、ダンスが始まる。そうして何分か踊っていたであろうか、突如女生徒の悲鳴が上がり、倒れ込むのが見えた。

 私はその子を介抱し、校庭の隅へと連れて行く。するとその女の子はガチガチと歯が鳴るほどに震える声で、「A君が二人いる」と、告げた。

 見れば確かに、踊りの輪の中にA君の姿だけが二つある。しかもどちらも本物のA君のようにしか見えないのだ。

 さすがにその事を皆に告げて大騒ぎを起こす事は避けたかったので、倒れた女の子と一緒に「黙っていよう」と言う事にはなったのだが、その時の私はどうしてこの旧校舎がそれほど古くはないのに使われなくなったのかを、なんとなく理解出来たような気がした。

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