#39 『山小屋の話・参』
冬登山。昼過ぎ、吹雪から逃げるようにして山小屋へと到着した。
意外にも小屋は大盛況だった。僕が到着し、その日の小屋の宿泊客は総勢七人となった。
山での嗜好品はほとんど宝物と呼んでもいいぐらいに貴重なものだ。その晩はポケットウィスキーを一舐めする権利を奪い合ってのトランプ大会がひらかれた。
トランプは夜更けまで続いた。その内、男性の一人が小用と言って小屋の玄関へと向かう。
吹雪はいつの間にか止んでいたらしい。男性が「いい月夜だ」と言いながら外へと出ようとしたその瞬間、異変に気付いて小さな悲鳴をあげた。
誰もが振り向き、何事かを確かめに向かった。すると小屋の外には、綺麗に降り積もった雪の上に一人分の足跡があった。しかもその足跡は、その小屋の玄関から暗闇へと続いていた。
当然、それまでに誰かが出て行ったと言う事は無い。逆もまた然りで、僕が来て以降は誰も訪れてはいない。さぁ、ではこれは誰のものだと、皆でその足跡を辿って確かめに行く事になった。
足跡はすぐに途切れた。小屋から数メートルの所に遭難者の慰霊碑が立っており、足跡はまさにその真ん前で終わっていたのだ。
誰もが手を合わせ、黙祷をした。そして帰ろうとした時点でようやく気付く。
足跡は、小屋からこの慰霊碑に向かっていたのではない。逆にそこから小屋へと向かって付いていたのだ。
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