#38 『山小屋の話・弐』
夏登山。久し振りに挑戦する山だった為、景色の良い場所を思い出してはあちこちと立ち寄って登った。おかげでかなり時間が遅れた状態で、目的の山小屋へと到着した。
時刻はほとんど深夜で、もう寝るだけにしておこうと小屋へもぐり込み、すぐに寝袋を敷いて横になった。
そうして何分もしない内だ。突然真横から伸びて来た手に身体を押され、ズズズズズッと数メートルも強硬手段で移動させられた。
当然僕は、悲鳴を上げて飛び起きた。確か小屋の中には僕一人しかいなかった筈。だが例え誰かがいたとして、暴力的に移動させられていい訳がない。僕はすぐにペンライトで辺りを照らしたが、やはりそこには誰の姿も無い。
だがすぐにその理由が分かった。その小屋の内部はドアこそ無いものの、二部屋に仕切られていた。要するに僕は、“寝て良い場所”に寝なかったせいなのだろうと気が付いた。
山小屋には登山客の宿泊以外、もう一つの用途がある。それは山で亡くなったホトケさんをふもとへと降ろす際、一時的にその遺体を置いておく安置所の役目だ。つまり僕は、その遺体安置所の方で横になってしまったからの事だったのだろう。
ちなみに山小屋にはもう一つの呼び名がある。それは避難小屋と言う呼称だ。
文明にほど遠い場所では、“死”はかなり密接した現象らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます