#41~42 『ループ』

 東京都M市に、断続して連なるトンネル群がある。そこの道路は歩行者と自転車のみが通行可能で、一般車両は物理的にも入れない程に狭い。

 そのトンネルでは、とある条件下で怪異が起きると言う噂があった。それはとても簡単な条件で、“四人でそこを通ると何かが起こる”と言うもの。そして当時高校生だった僕らは男女二人ずつの計四人で、ビデオカメラを持参し、その真相を確かめに行った。

 トンネルは計六つもあった。だが老朽化が原因で、五つ目と六つ目は通れないようになっている。結局僕らは五つ目のトンネルの前まで行き、引き返す事となった。

「結局、何も起きなかったじゃない」と、H美が言う。それを友人の清志が、「まだトンネルは二つ残ってるんだぜ」と、笑いながら脅した。実際僕もその時点までは何も起こらなかった事に落胆していた側だった。

 怪異は、既に起きていた。帰り道と言う安心感からか、単にまだその怪異に誰も気付いていないだけであった。

 残り二つのトンネルがやけに長く感じた。その違和感が現実味を帯びなかったのは、気心知れた友人ばかりで歩いていたせいだ。ひたすら馬鹿馬鹿しい話題で盛り上がり、はしゃいでいたからだった。

「なぁ、もうとっくに最初のトンネルって抜けていていい頃じゃないか?」

 最初にその異変に気付いたのは僕だった。残り二つだった筈のトンネルが、抜けても抜けても次が現れて来ている気がしたのだ。

 言われてみればと、清志もH美も不安げな声を漏らした。何しろもうかれこれ往復で三時間も掛かっているのである。距離的には一時間も掛からない程度の道なのに。そうして抜けた先には、やはりトンネルが見えた。

 皆が軽くパニックになりかけていた。歩く足取りはかなりの速度となり、焦りと不安から体力の消耗がやけに激しく感じる。いくらトンネルを抜けても、永久にここから抜け出せないのではないかと言う絶望が押し寄せて来る。

 そしてどれぐらいの時間が経っただろうか、次第に陽が傾き始めた。H美は既に体力も限界なようで、悲鳴に近い嗚咽をあげていた。

「ねぇ、ちょっと」と、背後から声が聞こえた。今までほとんど無口でいた、K子のものだった。

「みんなふざけてるんじゃないよね?」と言う声に、僕達三人は怒り出す。

「本気でここから出たい?」とK子は続けて聞く。「当たり前だろ!」と、清志がほぼ怒鳴り声でそう返す。「出られる手段とかあるの?」とH美が聞けば、K子はうんと頷く。

「出られるとは思うけど、私の事信じて、ちゃんと言う事聞ける?」

 妙な言い草だったが、誰もが「分かった」と頷いた。なんであれ、ここから出られるならば、誰でも言う事ぐらいは聞くだろう。

 K子はまず、ここからは全てビデオカメラを回して録画しろと言う。そうして今まで通りに出口へと向かって僕らを歩かせ、とある地点で「止まって」と制止する。そして何故かそこでUターンを命じて、今度は逆方向へと歩かせたのだった。

 結果、何分もしないで一番最初の入り口のトンネルを抜けた。唖然とする三人に向かってK子が言うには、何故か僕ら三人は二つ目と三つ目のトンネルの真ん中辺りでぐるりとUターンし、その間を行ったり来たりと繰り返していたのだそうだ。

 そしてその様子は確かにカメラに収められていた。トンネル途中でぐるりと後ろを向く僕たち。ただK子だけが一番後ろで、そんな僕たちの奇行を怪訝そうに見つめていた。

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