#43 『カーブミラー』

 ぐわんぐわんと、音が聞こえて来そうなぐらいにそれは揺れていた。

 いや、近付けば確かに音もしていた。軋み音と言うか、風を切る音と言うか、とにかく尋常ではない音だった。

 揺れているのは、三叉路の道路の端に立てられたカーブミラーだ。もちろん地震や台風などの天災ではない。ただ、そこに立っているカーブミラーだけが恐ろしい勢いで揺れているのだ。

 一体どうして? そんな疑問も確かにあったが、それ以上に怖かったのは私以外の目撃者だ。

 三叉路の全ての方向に一人ずつ、道路脇に立ってそのカーブミラーを眺めている者がいた。

 OL風の女性に、中年男性、そして高校生らしき女の子。それぞれが道路脇に立って、その揺れるカーブミラーを見つめていた。但しそれは私のように驚きの表情ではなく、とても冷静な“監視”の視線そのものだった。

 私はその瞬間、自分には逃げ場が無い事を悟った。どの道を逃げても、必ずその“監視者”の前を通る事になるからだ。

 慌てて私は近くにあった店舗のドアを開ける。全く用事の無いクリーニング店ではあったが、背に腹は代えられない。

 するとその事情を理解してくれているのか、店員らしき女性がカウンターの内側へと私を手招きしてくれた。

「怖いんですが」「怖いわよね」そんな会話だけで、共感が出来た。

 結局、そのカーブミラーの揺れは数分で収まった。店員さんと二人で外を確認してみると、三人の監視者は、既にどこにもいなくなっていた。

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