#93 『旧道』
隣の県へと抜ける山道があるのだが、それに平行して旧道が一本、存在していた。
かつてはそちらがメインの道路であったのだが、とてもカーブが多い上に狭いので、当然事故も多く、新道に移り変わってしまったらしい。
さてその旧道。山の上に、いわゆる心霊スポットと呼ばれるトンネルがある。当時高校生だった僕らは、旧道を通ってそのトンネルに肝試しに行く事になった。
総勢六人。全員、懐中電灯を持って臨んだ。
長い上り坂を経て、ようやく問題の場所へと辿り着く。トンネルの入り口に立つと、遙か遠くに小さくぼんやりと、向こう側の出口が見えた。
意を決して中へと踏み込む。だがすぐに僕たちは撤退する。暗いのだ。暗すぎるのだ。当時はまだ高性能で出力の大きなライトなど無かった時代なので、僕らが持っていたのはマンガン電池を数本入れて使うと言う程度の、玩具のような電灯ばかり。おかげでその濃密な暗闇の中では、自らの足下をぼんやりと照らす程度の灯りしか望めず、個々では暗闇に対抗出来ないと感じたのだ。
どうするか話し合った挙げ句、先頭には年長のN君が立ち、そして三人でつなぎ合わせたベルトにつかまり、全員で一斉に抜けようと言う事となった。
そうして再びトンネルの中へと踏み込む。今度はなんとか上手く行きそうな気がした。だが途中で、僕だけがその異変に気付いた。僕の真ん前に、“七人目”の誰かがいる事に。
何しろ僕の前を見れば、懐中電灯の明かりは三つ。そして後ろを振り返れば二つ。そして僕のを入れて六つ。だが僕の目の前には、懐中電灯を持たない“誰か”が、同じベルトを掴んで歩いているのだ。
それでも、誰も何も気付かないままトンネルの出口が近付いた。そしてその“誰か”は、突然ベルトを離して僕を突き飛ばし、後ろの二人にも体当たりを食らわし、トンネルの奥へと引き返して行ってしまった。
ちなみにその旧道とトンネルは今も現存する。だが老朽化を理由に、厳重に封鎖され、誰も立ち入る事は出来なくなっている。
今以て、あの七人目が人なのか、それとも別の何者かなのかは分からないままだ。
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