#12 『足湯』

 超有名な湯治場の観光地へと、仲の良い女子四人組で旅行へと出掛けた時の事だ。

 街の至る場所に、足湯が楽しめるコーナーがあった。無料と書かれた場所があり、私達はそこで足湯体験をする事にした。

 湧き出る温泉は薄緑に濁った湯で、効能も凄いそうだ。私達は四人で並び、その濁り湯に足を浸けた。

 想像していたよりも湯は熱く、膝から下はすぐに真っ赤になった。私はあまり長湯は得意ではないので、そろそろ出ようと思った時だった。その濁った湯の中で、両足首を何者かに掴まれた感触があった。

「ひぃっ!」と悲鳴を上げて私は飛び出た。他の三人は何事かも分からず私を見ていた。

 夜、食事を終えた私達は、宿の大浴場へと行く事になった。私はあまり気乗りしなかったが、風呂にも入らず寝るのもなんか嫌な気がしたので、結局付き合う事にした。

 四人で湯船へと浸かっていると、またしても両足首を掴まれた。それどころか私は両足を引っ張られ、湯の中へと沈み、苦しみもがいた。何しろ足の方向へと引っ張られているのだ。身体を起こしたくても、起こしようが無い。私は湯の中でもがきながら、死すらも覚悟したその時、友人の一人に助けられ、ようやく湯船から出る事が出来た。

 友人達いわく、巨大な魚のようなものが私を引っ張っていたとそう話していた。だが私の足首を掴んだのは、魚ではなく人の手の感触だった。

 以来、例え自宅の風呂であっても、私は湯船に浸かる事はしていない。

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