#538 『開かずの間を開けた話・更に後日譚』
二夜に渡ってお届けした、とある地方の開かずの間に関するお話し、最終話である。
――母屋は、取り壊す事が出来ないまま数年が過ぎた。一度は「建て替えが無理ならもう一度母屋に戻るか」と父が言い出したのだが、家族全員の猛烈な反対によって建屋での生活を続ける事に決まったのである。
ある時、父が重い病気に罹り入院生活を余儀なくされた。
母は生活を支える為に町まで出て、父の看病と共に週末だけ家へと帰るだけとなってしまった。
長男は既に就職で家を出た後だったので、当然家には僕と姉と二人だけ。前は一日に一度、例の部屋に線香をあげに行っていた習慣も、自然に途絶えてしまっていた。
そんな折、家に訪問者が現れた。稲葉と名乗る生真面目そうな男性であった。
稲葉氏は、「家を見せて欲しい」と言う。理由を聞けば、大昔にそこに祖母が住んでいた時期があるからだと言う。
だが、それで家を見せて欲しいと言う理由とするならば動機は薄い。納得の行く理由を聞かせてくれと問い詰めると、「かつて祖父がここで亡くなった」と言うのである。
僕と姉は、その男に付き添い母屋へと入った。稲葉氏は「間取りは聞いて知っている」と、地図を取り出し勝手に歩き始める。
僕と姉は、なんとなく勘付いていた。行き先は間違いなく、例の開かずの間だろうと。
だが稲葉氏は脇目も触れずに二階へと上がると、かつて僕の祖父が使っていた寝室へと踏み込んだ。
どうする気だろうと思っていると、稲葉氏はその部屋の畳をめくるのである。
そして僕らは驚いた。その畳の下にびっしりと並べられているお札(ふだ)を目の当たりにしてしまったからである。
「納得行きました」と、稲葉氏は帰って行ってしまった。
そうして僕は気が付いた。亡くなった祖父が寝ていたその寝室は、例の開かずの間の真上であったと言う事を。
それから間もなく父が他界し、僕と姉は相談の上、母を連れて他の町へと引っ越しする事に決めた。
僕らが住んでいた土地は、まるで売れなかった。従って今もまだそこに健在している。
時代が変わり、インターネットが当たり前の世の中となり、僕はある時ふと思い出して、昔住んでいた例の家の辺りを検索してみた。
かつての我が家は、今では心霊スポットとして紹介されていた。
かつて中を見たいと思っていた開かずの間は、他の人の手によって暴かれていた。
扉を塞いでいたのは、大量のお札(ふだ)であった。当然、扉が内開きなのだから、中から貼られていたものである。
部屋の中には小さな仏壇が置かれ、そして布団が一組敷かれていた。
土地の人の話では、かつてそこで殺人事件があったのだと言う。
殺されたのはその家に住む大家の男性で、加害者はその家の真ん前に住む建屋の住人だったと言う。
何故か被害者の妻である女性はその夫の遺体を西側の部屋へと押し込めた上で放置。後に死体遺棄と言う罪で逮捕されたらしい。
但し殺された場所はその部屋ではなく、加害者が住む向かいの建屋の中だったと言う。
加害者はその後も、行方が不明のまま捕まってはいない。
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