#89 『棲み家(すみか)』
三年前に行方不明となった友人Kの遺品が、某山中で見付かったと連絡が入った。
仲の良かった友人数人とで、その遺品のあらために向かった。それはバッグ一つだけであったが、間違いなくKの所持していたものだった。
その山はKがとても気に入っていた山で、休日ともなると誰にも教えず一人で登っていたりしたらしい。だがそれだけ馴染んだ山にも関わらず、どうして遭難などしてしまったのだろうか。答えはそのバッグの中の、コンパクトデジタルカメラの中に収められていた。
運良く、データは破損していなかった。おかげで僕たちは、そこに何が写っているのかを確かめる事が出来たのだが……。
「なんだこれ」と、友人の一人がつぶやいた。一枚の写真に、奇妙なものが写っていたせいだ。
それはまるで、小さな竜巻のように私には見えた。地面から立ち上る煙のような黒い影。最初はそれが何なのかまるで分からなかったのだが、それから後に続く写真を見て、それがどんなものであるかは想像が付いた。Kの撮った写真の多くにはその竜巻のようなものが写っており、それがその時々で人の形をしていたりするのだ。
「山に棲むもんだろうなぁ」と、誰かが言った。僕もまた漠然と、“魅入られたんだろうな”と想像した。
遺品はKの家族へと届けた。応対にはKの妹が出て来てくれて、何度も丁寧に礼を言われたのだが。
「あら」と、妹はバッグの中のカメラに気付いた。「中の写真、見ましたか?」と聞かれ、僕たちは素直に頷いた。
「黒い影のようなもの、写ってませんでしたか?」と聞かれ、それに対しても素直に頷く。すると妹は、「兄の部屋へと来て欲しい」と、僕たちを家に上げてくれた。
Kの部屋を見て驚いた。その部屋には沢山のスナップ写真が飾られており、しかもその全てにあの黒い影が写り込んでいるのだ。
「これって……全部、Kが?」僕が聞くと、妹はゆっくりと首を横に振り――
「これは全部、私が撮った写真ですよ」と、彼女は笑った。
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