#430 『寄宿舎』
前出のゆーろさんの体験談。最終の三夜目。同、高校時代の話。
学校行事の一つに、同じクラスで仲良くなろうと言う目的の、お泊まり会があった。
場所は学校から少し離れた場所にある寄宿舎。当然、寄宿舎なのだから、大部屋、小部屋と泊まる場所があり、そして簡素なシャワールームまでもが完備されていた。
部屋割りで、私は八人部屋を割り当てられた。その中には、前出のM美の姿もあった。
さて夕食も済み、後はシャワーだけである。シャワールームは四人までしか入る事が出来ず、順番待ちの状態だった。
やがて我々の番が来た。私はM美達と一緒に浴室へと向かったのだが、そのシャワールーム、実は曰く付きのもので、一番奥の個室を使うと、全身に謎の発疹が出来ると言う言い伝えがあったのだ。
当然、その奥の個室は誰も使いたがらない。だが私は、そんな怖くもない怪異談を信じる程でもなかったので、自らの意志でそこのシャワーを使った。
適当にざっと流してすぐに出た。そうしてロッカーの前に移動して身体を拭いている際に、私の名を呼ぶM美の声が聞こえて来た。
「どうしたん?」と、閉まったカーテン越しにそう聞けば、「悪戯とかやめといてぇ」とシャワーを使いながら笑っている。
「悪戯? 私なにもしてないよ」と返せば、「だってずっと私のいるカーテンの前に立ってたじゃない」と言うのである。
「いや、私はすぐに出て向こうに行った」
「いや、ずっとここにおった」
話が噛み合わないのである。
とりあえず私は服を着ようとまたロッカーの方へと戻ったのだが、またしてもM美が私の名前を呼ぶ。しかも今度は少々怒り気味に、「いい加減にしてよ」などと言っている。
「私、何もしてないよ」と言う声は、M美の悲鳴に掻き消された。M美は裸体で飛び出て来ると、急いで身体を拭いて服を着込む。
部屋へと戻っても、M美はそこで何があったのかをまるで話さない。やがて恒例の、深夜の校舎見回り肝試しが始まったのだが、やはりM美は参加しなかった。
私の班は四人だったが、その内の一人が、「どうもさっきから、“五人目”の気配がする」と言って我々を脅すので、とても辟易させられた。
結局、その晩はそれ以上何も起こらずに終わった。翌日、軽い朝食を終えた私達は、解散となって家へと帰る事になった。
その際、寄宿舎の門の辺りまで来てようやく、M美が口を開いた。
「なるほど、ここからは出られんのやなぁ」と、背後を振り返りそう呟く。
後で聞いた話だが、私がシャワールームでロッカーの方へと移動した際、私が使っていた個室から誰かが出て来て、M美の個室の前に立ち塞がっていたそうだ。そうしてそれが二度目に現れた際、顔を寄せて両手でカーテンを握り締めたのだそうだ。
「うっすらだけど、透けて顔が見えた」と、M美は言う。
なるほど、やはり彼女は“視える人”なのだと、そこでようやく確信を得た。だがそのM美は私を指して、「あんたは“憑かれる人”だね」と言う。
どうやら怪異は、私がきっかけで起きていたらしい。
その晩、私の腕と背中に発疹が出た。一晩でそれは治ったが、やけに痒かった事を今でも覚えている。
――ゆーろさんのお話しはまだ残り五話あるのだが、また折りを見付けてご紹介したいと思う。
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