#414 『コピー機に挟まる何か』

 零細ながらも設計の会社を経営している。

 狭い間取りの社内には、四人の従業員。そこに私を足して、五人程度の小さな会社なのである。

 当然、社長だと言って威張っているような立場ではない。もっぱら最前線の厳しい仕事が、私の仕事となっている。

 仕事は毎日、深夜まで続く。もちろんそんな時間まで居残るのは私一人。眠気と戦いながら翌日必要となる書類のコピーを取る。

 さて、これを仕分けたら終わりだと、帰りたい気持ちで一杯の自分を奮い立たせ、ページ通りに書類を並べて行く。するとそこに一枚、真っ黒に印刷されたページが一枚だけ挟まれて出て来る。

「なんだこれ?」と、私はその印刷ミスされた一枚を取り上げ、丸めて捨てる。

 さて、一枚がミスされたのだから、どこかの一枚が不足となっていてもおかしくはないのだが、結局は不足の無いまま仕分けが終わる。

 大方、昼真に誰かがミスしたものを、そのままコピー機の中に忘れたのだろうと思い、その件はそこで終わってしまった。

 それから数日経って、またしても真っ黒に印刷された紙が放出されて来た。しかもまた、私が一人で残業している時の事だった。

 やはりページ数は合っている。ならば何故、このようなものが印刷されてしまうのか。

「異常ありませんね」と、コピー機レンタルの会社のサービスマンは、そう言って帰って行ってしまった。翌日の昼の事だった。

「印刷ミスなんて当たり前にあるんだから、そんなんで呼び付けたら気の毒ですよ」と、女性従業員は私に苦笑いをしながらコピー機を作動させる。

 それもそうかと思っていると、その従業員は「あらやだ」と言って印刷途中なのにカバーを開いて用紙を取り出してしまう。どうやらコピーする資料自体を間違えたらしい。だが――

「なんだこれは」と、私はそこから出て来た紙を見て驚く。カバーを開き、用紙も無いままに印刷された紙は、何も無い空間を印刷したが為に、真っ黒に染まって放出されて来たのだ。

 私はそれを見て確信する。二度も出て来たあの真っ黒な紙は、まさにこれと同じものだと。

 だが、連続してコピーした中にカバーを開いたままのものが挟まる筈が無い。どうしたものかと悩んでいると、その日の晩もまた、真っ黒な印刷物が放出されて来た。

 だが今回のは少々違った。真っ黒な中、下方の縁の辺りに小さな丸い点が三つ、見受けられたのだ。だがそれはどう見ても人の指の先のようで、薄気味が悪いのである。

 以降、私は夜にコピー機を使う事をしていない。

「では、お先に失礼します」と、十九時辺りになれば社員は全員そそくさと帰って行ってしまう。

 誰もが残業をしたがらないのは、家に帰りたい以外の理由があったりするのだろうか?

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