#415 『抜け出せないロータリー』
酷く酩酊した状態で、終電に乗り込んだ。
おかげで到着した駅は、自宅の最寄りから四つも離れた終点の駅であった。
駅員に揺り動かされ、懸命に目を開けて電車を降りる。だが、更に酔いが回ったせいか歩く事もままならない。
改札の向こうでは駅員が既に半ばシャッターを下ろし掛けている。私はそれに対し、悪態を吐いて通り過ぎた。
終点の駅は、とても寂しい印象しか無い田舎の町だ。改札自体は南側にしか無く、バスとタクシーが数台停められる程度の小さなロータリーがあるだけ。
そして私が想像した通り、そのロータリーにはタクシーどころか車の一台も止まっていない。
さすがにこんなコンディションで、家まで歩いて帰るには厳しすぎると思った。だが現状は、徒歩以外に選択の余地が無い。
背後でシャッターが閉じられる音がして、同時に駅の照明も落とされる。街灯があるとは言え、一気に暗くなった感はあった。
仕方無しに私は歩いた。おそらくは家まで一時間半は掛かるだろうと言う見込みで、とぼとぼと足を進め始めたのだが、少し歩けば何故か前方に照明の落ちた駅が見えて来る。
どう言う事だとそのままUターンし、今度は今来た道を逆に辿るが、やはり少し進めば駅の前へと出てしまう。
訳が分からない。もう一度周囲を見回し。そこでようやく気付く。要するに私はその駅前ロータリーをぐるりと回って元に位置に戻っているのだと。
流石に酔いが激しい。思いながら今度は慎重に脇へと抜ける路地を探して歩くのだが、やはりまた同じ場所へと辿り着く。
気味が悪いな。そう思いながら、私はそのロータリーを取り囲むシャッターの閉まった店の並びを注意深く観察し、一軒ずつ建物の隙間を覗くようにして歩く。一応はギリギリ入れるかなぐらいの隙間がある場所が存在するが、その向こう側は漆黒の暗闇で、とても入って行けるような雰囲気ではない。
馬鹿馬鹿しい話だが、閉じ込められた感があった。
私は駅まで戻り、シャッターを叩く。まだ中には駅員がいる筈なのだが、何の応えも無い。
私は仕方無くその場で座り込む。もはや打つ手が無いのだ。
とんでもない状況であると言うのに、酷い眠気が襲って来る。寝てはいけないと思いつつも、いつしか私は深い夢の中へと落ち込んで行ってしまった。
次に目覚めた時は、自宅の玄関先だった。まるで家の中に入ってドアを閉めた瞬間に力尽きたかのように、ドアに背を預けたまま体育座りで眠り込んでいたのだ。
どうやってここに行き着いたのかが分からない。そして手に持っていた筈の鞄が無い。
もしやと思い、私は最寄りの駅へと向かう。会社とは逆方向の電車へと乗って、終点へと辿り着く。
鞄は、あった。なんでも駅員がシャッターを開けた途端、内側に転げて来たのだと言う。
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