#776 『河原へと続く道』

 私がまだ小さかった頃のお話しである。

 母に連れられ、良く近くの河川敷へと散歩に出掛けていた。

 川へと向かう道は未舗装の砂利で、その両側は背の高い草で覆われている。

 途中、道が湾曲してS字を描く場所がある。どうしてそんな道にしたのかは分からないが、母は良くそこを通る度に、「ここは霊道と繋がってるから」と私に教えてくれるのである。

 さて、とある夕暮れ時の事。母と一緒にその道を散歩していると、例のS字カーブの所で中学生ぐらいの男女が集まり、花火をして遊んでいた。

 子供心にも、「嫌だなぁ」と感じた。せめてもう少し向こうまで行って、河川敷でやればいいのにと。

 その中学生達は私と母を見付けると、すぐに道を譲り、「すいません」と頭を下げた。

 通り過ぎ、少し行った辺りで、「霊道なのにね」と母に言うと、「あれぐらいなら大丈夫」と母は笑う。

「良くないのは、道が通れないように何かで塞いじゃう事。ああやって遊んでいる分には害は無いわ」

 そんなもんかと、私は納得する。――が、それからは度々、その道でたむろする例の中学生達の姿を見掛けるようになった。

 ある日の事、前々から話に上がっていた河川工事が始まる事となった。当分、川には行けなくなると知り、私は母にねだってもう一度だけ散歩したいと我が儘を言う。

 だがすでに工事は入ってしまったらしい。いつもの道を行けば例のS字カーブの手前辺りから通行止めとなり、背の高い鋼板で完全に道は塞がれてしまっていたのだ。

「もう通れないねぇ」と二人でそこに立っていると、背後から人の声が聞こえて来た。振り返ればそれはいつもそこでたむろしていた中学生達で、彼等もまた塞がってしまった道を見て、「やっちゃったなぁ」と険しい表情をしていた。

 それから少しして、工事現場内で事故が多発した。それを聞いて母は、「ほらね」と私に言う。

「霊道を塞いだから?」と私が聞けば、「そうだよ」と母は頷く。それから少しして、母と私は例の道を通り行き止まりまで散歩をした。すると母は上を見上げ、驚いた顔をする。

「あの子達、やるもんだねぇ」と感心し、「あの花火遊びも伊達じゃなかったんだね」と笑っていた。

 霊道は、いつの間にか空を通っていたらしい。

 後日、河川敷でクレーン車が転倒する事故があった。それを聞いて母は、「そこまで想定はしてないよねぇ」と、苦い顔をして笑った。

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